現代戦争論 -超「超限戦」これが21世紀の戦いだ 渡部悦和(元陸将)佐々木孝博(元海将補) 

2020年8月5日初版発行

 

はじめに

『超限戦』が民主主義諸国の人々、とくに軍人にとって衝撃だったのは、『超限戦』の本質が「目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する」ことを徹底的に主張するからです。民主主義諸国の基本的な価値観(生命の重視などの倫理、法律、自由、基本的人権など)の制限を超え、あらゆる境界(作戦空間、軍事と非軍事、正規の非正規、国際法)を超越する戦いを公然と主張することに驚いたのです。

 

三国志』のみを読んだ人は三流、『三国志』と孫子の兵法を読んだ人は二流、『三国志』と孫子の兵法のほかに『韓非子』を読んだ人は一流」(中国の要人の人物評価)

 

「超限戦」の起源がマキャベリの『君主論』であり、『韓非子』であることは、『超限戦』に記述されています。(このこと)を多くの日本人は知らないと思います。

 

第1章 現代戦とは

 1 『超限戦』の本質

 2 現代戦の特質 6つの作戦領域(ドメイン)からすべての作戦領域へ

 3 現代戦と最先端技術

 4 情報戦(政治戦、影響工作、プロパガンダ戦など)とは

 5 宇宙戦とは

 6 サイバー戦とは

 7 電磁波戦(電子戦)とは

 8 AIの軍事利用・アルゴリズム

 

 現代戦をコンパクトにまとめているが、中でも「すべての作戦領域へ」の中で、アメリカも、情報ドメイン、認知ドメイン、ヒューマンドメインなど、あらゆる領域に対する現代戦(全領域作戦)の検討が提唱されていること、それが『超限戦』の「すべての領域を考える」に符号していること(要するに中国もアメリカも同一の方向を目指して現代戦を考えていること)に驚く。

 

第2章 中国の現代戦

 ここでは、中国がすでに人民解放軍(PLA)が中心となって現代戦を具体的に展開していることが詳細に紹介されている。

 中でも、中国が、世界的には認められていないサイバー空間と電磁波領域における主権「サイバー・電磁主権」を主張していることや、PLAの「敵の作戦システムを麻痺させる」「敵の戦争指揮システムを妨害する」必要があるとの主張や、情報優越が戦場での勝利の前提条件であることが強調され、既に現実的に実行されていることを知り、脅威を感じる。2030年には中国は「宇宙最強の夢」を実現すると宣言している。そして中国はアメリカの宇宙への依存を最大の弱点だと思っており、宇宙システムは「攻撃が用意で防御が困難」なものであり、最重要なターゲットであるとの認識の下、アメリカの

 GPSに対抗して「北斗」衛星測位システムを整備し、2018年には米国のGPSの衛星数を追い抜き、全世界向けのサービスを開始したとのこと。しかも「中国のASAT(対衛星)研究への投資は、すべての軌道のすべての衛星に脅威を与える可能性がある」(米空軍司令官ジョン・レイモンド将軍)とのこと。恐ろしい。

 加えて、サイバー空間における万里の長城を築き、外部からの攻撃に対して防衛的サイバー戦に備え、大きな大砲を築いて攻撃的サイバー線を展開する(グレート・ファイアーウォールとグレート・キャノン)。

 宇宙戦とサイバー戦を制して世界最強国にのし上がろうとしている現在の中国のありのままの姿が描かれており、大変勉強になる。貴重な資料でもある。

 

第3章 米国の現代戦

 米軍も、従来の「平和」と「戦争」の事態区分を改め、マルチドメイン作戦では、「競争」と「紛争」に区分し、テロ対策重視の政策から、オールドメイン作戦に切り替え、あらゆる分野(第1章参照)で、中国と覇権争いを展開している内容が、具体的に記されている。とても一言で書ききれるものではない。

 

第4章 ロシアの現代戦

 何といっても、影響工作の手法(第7の領域「認知領域」での戦い)、中国でも言及し始めている制能戦、制能権(政治指導者や軍指導者の脳を支配する)の中身が衝撃的。ウクライナ危機、アメリカ大統領選でのロシアの行動が具体的に書かれており、既にこの戦いが現実に行われていることに恐怖しか感じない。

 

第5章 現代戦の総括と日本の現代戦

まとめになっている。この本は本年で一番勉強・参考になった本である。多くの人がコロナ騒ぎでコロナばかりに目を奪われると、こういう貴重な本に接する機会が減ってしまうことを最も懸念する。