落日燃ゆ 城山三郎

毎日出版文化賞吉川英治文学賞受賞作。

裏表紙 東京裁判で絞首刑を宣告された7人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちとと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁k内をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。

 

広田「日本には、衆議院貴族院の他に枢密院という権力を持つ存在がある。この枢密院に対してどう説明するか、また枢密院はこの問題をどう見るだろうか、そこまで頭に置いて考えなくてはだめなのだ」

広田は慎重であった。できるだけ多方面の情報を集め、各方面とのバランスを考えながら事を進めて行くやり方で、極端に他の方面を刺戟したり、あるいは強い反対をひき起こすようなものは、実際には力になり得ないという考え方であった。

 

広田は、面会にきた家族に苦笑してつぶやいた。

「かんじんの練習は、みんな自殺したりしてしまったからね。無責任だよ、みんな」

そのあと、他人事でも話すように、いい足した。

「この裁判で文官のだれかが殺されねばならぬとしたら、ぼくがその役をになわねばなるまいね」

 

広田弘毅は、人物である。