ワレンバーグ ナチスの大虐殺から10万人のユダヤ人を救った、スウェーデンの外交官 M・ニコルソン,D・ウィナー 訳/日暮雅道

 

 1991年6月1刷 1996年1月5刷

 

こんなに勇気があって、しかも知られざる偉人がいたなんて!ユダヤを救ったといえば杉原千畝さんが有名ですが、それ以上の活躍をされながら最後は行方不明になってしまうとは!何という悲劇でしょう!

そもそもワレンバーグ家はスウェーデンでは銀行や企業を多数所有する財界の名家らしく、それなのに、というか、それだから、というか、1人、ユダヤ人を救うために命を投げ打って戦い続けた人がいたんですね。外交官としての立場を活かし、人を救うためなら何でもやる、口で言うのはやさしいですが、死と隣り合わせの状況でそれを実行するというのは普通なかなかできないことです。

ワレンバーグのユダヤ人救出劇はあまりに多くあり過ぎてとても紹介できません。例えばスウェーデンのパスポート的な書類を作ってはユダヤ人を次々に救出するという手法は、ドイツ人の権威に弱い弱点をうまくついた偉大な知恵として紹介されていました。

ハンガリーの中ではユダヤ人社会がかろうじて残ったそうですが、そこに限らずユダヤ人の方々からは、ワレンバーグという人は本当に尊敬されていたようです。

最後にソビエトに向かう途中か到着したソビエトでなのかは分かりませんが逮捕されてしまい行方不明になるという悲劇が起きてしまいます。そして多くの人がワレンバーグを忘れかけた時にブタペストのユダヤの人々、イスラエルの人々が声をあげ、ようやく世界も彼を讃えるようになりました。

巻末のビヤネール多美子さんの解説によると、ラウル・ワレンバーグの祖父は日本の初めての外交官であり、日本でこのような伝記が出ることに異父妹のニーナさんはとても喜ばれていたとのこと。

それにしても、本書を読んで改めて気づかされましたが、これだけのナチスによるユダヤ人虐殺が現実に行われている中で、なぜ世界の人々はこれを黙認したのでしょうか。アメリカにしてもイギリスにしてもソ連にしてもまた多くの国々はどうしてもっと当時声をあげなかったのでしょうか。その中でワレンバーグは自分の命を投げ出して一人でも多くのユダヤ人を救い続けた。その崇高な精神は語り継がれなければいけないし、反対にどうして当時世界が沈黙してしまったのかという大問題はこれとは別に考えていかなければいけない問題だと痛切に感じました。勿論ヒトラーアイヒマンが極悪であるのは当然です。国内でこのような独裁者を生んだドイツに問題があるのも同様に問題です。それと同時に世界が沈黙してしまったことの大問題(最終盤で声をあげ始めたようですが、しかし時既に遅しで何百万人というユダヤ人が殺害された後ですからアフターフェスティバルだったわけです)についてはじっくり考えなければいけないと思います。自分が果たしてワレンバーグのような勇気ある行動が本当に取ることができるのかについても問われているとも思いました。

ワレンバーグについては様々な書籍があるそうですし、スウェーデン映画やソ連の記録映画もあるそうなので、時間を見つけて目を通したいと思います。