菊池寛 1888-1948 ちくま日本文学027 

 

勝負事

 著者が小学校の修学旅行に行けない文句を両親にしつこく話したら、実は祖父が賭け事で全財産を失ったためであったことをはじめて打ち明けられて知った。2度と勝負事をしないと決めた祖父が、亡くなる直前に藁堆で藁を抜いて長い方が勝つという勝負事をしていた相手が孫の著者で、それをそばで見ていた著者の母が祖母をいとおしく思うという、ほのぼのとしたショート自伝。

 

新今昔物語より

好色成道

比叡山の若い学僧が嵯峨の法輪寺に出かけた帰り、暗くなったので一泊させてもらったら、家の主人と思われる美しき女が寝ていて傍へ寄ると、法華経を空で読めるようになったら訪ねよと帰す。20日程で諳んじるようになった学僧が再訪すると、今度は三周の説法とは何かと訊く。3年勉強して法華経の奥義を窮めたらそれを教えてくれと言って帰す。3年勉強して再訪すると、序品の十字訣、方便即真実を尋ねる。説いているうちに女を犯す気持ちが消えてしまったというお話。後に天台座主になった覚慶僧正の話らしい。

 

戯曲 父帰る

 20年ぶりに突然我が家に帰る父親。すっかり弱っていたので、弟や母親は迎え入れようとするが、長男は自分が苦労して弟や妹を世話してきたからこそ、父親として認めることができず、父親はぷいと出てしまう。その直後、長男が弟に「お父さんを呼び返してこい」と命じるも、どこに行ったか分からないまま幕が落ちる。長男の父親に向けた言葉が厳しくてリアル。肉親の情と憎しみが交錯する複雑な人の心をリアルに描いた戯曲。代表作の一つらしい。

 

噺の屑籠

 口語訳にしても面白みが残る西鶴の非凡さを取り上げている。

 

私の日常道徳

 自分に好意を持っていてくれる人には、自分は好意を持ち返す。悪意を持っている人には悪意を持ち返す。

 

解説 接続詞「ところが」による菊池寛小伝 井上ひさし

 家が貧しかったのは本当のようだ。そのため回り道をして一校に22歳で3番か4番の成績で入学。同級の芥川龍之介より4つも年上。

 それでも、いつも彼の作品の結末はたいてい明るく締めくくられている。井上は菊池が自分の作品の読者が、文学青年ではなく、サラリーマンや教育を受けた大衆であることを承知していたからだと述べる。

 

 文藝春秋の生みの親、菊池寛本人の作品は、あまり読んだ記憶がなかったので、勉強になった。