モスクへおいでよ 瀧井宏臣

2018年11月15日第1刷発行

 

モスク「東京ジャーミイ」案内人・下山茂さんが著者に語った話がまとめられている。

イスラム教については、正直、あまり知らなかったので、とても勉強になった。

イスラムというのは「平和」を意味する言葉だというのは何かで読んで知っていたが、モスクの中がどうなっているのか、どうして一日5回も礼拝したり年1か月も断食したりするのか、よくわかっていなかった。また、どこに向かって礼拝しているのか(マッカにあるカアバ神殿)すら知らなかった。

また平等を大切にし、平和を求める宗教であるからこそ、キリスト教、仏教と並んで世界宗教の一つなんだということも改めて学ぶことができた。

どうしてもイスラム教というと、テロとか怖いというイメージが先行するが、まずは偏見を持たずに知ることが大事だと思う。

 

以下、この本を読んで、へー、と感心した箇所の抜粋。

859年にモロッコに作られた世界最古「アル=カラウィン大学」。現在もモロッコの大学として続いている。世界最古の大学はボローニャ大学だと思っていたが、ヨーロッパ最古の大学だったようだ。かつてイスラム文明が栄えた地域で生み出されたアラビア数字・代数学はヨーロッパにもたらされたり、カメラのもととなった仕組みをイブン・アル=ハイムサ(965頃~1039年頃)が発明したり、メスをはじめ200以上の外科手術の器具を開発したアッ=ザフラウィー(936~1013年)、肺循環の仕組みを発見したイブン=ナフィス(1213~1288)など、イスラム文明のおかげと言えるものが現代にまで多々伝わっていることに新鮮なおどろきがあった。コーヒーもアラビア語のカホワがなまったものらしい。今から1000年以上前にイエメンかエチオピアでコーヒー豆が発見され、アラビア半島からヨーロッパへと広まった。

山下さんに大きな影響を与えたのが東京大学農学部の博士課程で学んでいたイラク人のサーレ・ハマディ・サマライさん。後にサウジアラビアのリヤド大学やキング・アブドゥル・アズィーズ大学で教授を務める。サマライさんから「日本にイスラムの布教センターを作りたい」と訴えかけられた山下さんが協力することになり1974年12月にイスラミック・センター・ジャパンが設立される。その後サウジアラビアに留学してアラビア語を学ぶため、山下さんはイスラム教徒となる。

2015年、ISの人質となった後藤健二さんや湯川遥菜さんの事件の際、東京ジャーミイは大勢のマスコミに取り囲まれるが、山下さんは「ピンチはチャンスでもあるから、どんな小さなメディアでも基本的に全部受け入れよう。絶好の機会だからメディアを通して日本人へのメッセージを送ろう」と考えて、「イスラムは人を殺すことを認めていません。勿論、テロも認めていません。クルアーンには『ひとりの人間を殺すことは、全人類を殺したのと同じである』と書かされています」とテレビカメラに向かって訴えたことが紹介されている。「戦争の最大の被害者は真実である」という名言を引きながら、イラク戦争やアフガン戦争も批判している。随所にモスクの美しい内部が写し出された写真が掲載されており、まるで美術館のようだ。また大勢の人が老若男女分け隔てなく横一列に並んで礼拝する姿も印象的だ。世界に10数億人の人びとがイスラム教徒なのだから、この人たちの信仰がどういうものなのかを知って理解することは、とても大切なことだと、とても当たり前のことだけれども、改めて痛感した。