2018年3月 100分de名著 松本清張スペシャル  点と線、砂の器、昭和史発掘、神々の乱心 原武史

第1回 『点と線』 人間と社会の暗部を見つめて

社会派推理小説の記念碑的作品と呼ばれる「点と線」。香椎潟で男性と女性の死体が発見されるところから始まる。事件のからくりは、汚職事件の口封じに中間管理職の男性一人だけを殺害すると怪しまれるので女性との情死と見せかけようとしたもの。その犯行を主導したのは汚職事件をもみ消そうとした男ではなく、なんとその男の妻。なぜ妻が?殺害された女性は、妻公認の男の2号さん。結局、高級官僚はのうのうと生き延び、また女は怖いよと思わせ、愛人を否定する清張の一つの見識が現れている小説です。昔、読んだのを思い出しました。

 

第2回 『砂の器』 生き続ける歴史の古層

東北方言で「カメダ」が手掛かりだと思い秋田の亀田で捜査するも行き詰まり、実は同じくズーズー弁が使われている出雲の亀嵩に手がかりがあった。犯人は戦後の戸籍消失に乗じて戸籍を作り替え、自らの父親がハンセン病患者であったことを知られないようにしていたのに、自分の過去を知る者に出会ってしまい、殺害してしまう。ハンセン病への社会的偏見が生んだ犯罪とも言える。こちらも、昔、読んだのが懐かしい。

 

第3回 『昭和史発掘』 歴史の裏側を暴き出す

未公開資料や綿密な取材に基づいて書き上げたノンフィクション。特に2.26事件に新しい視点(5.15はテロ事件と言えても、2.26は規模からいって軍事クーデター)を打ち出したところが大きな読み応えだという。また昭和天皇の登場は明治天皇の再来・復活と認識させ、君民一体の空間が確立したために直訴が頻発したと分析する。

 

第4回 『神々の乱心』 国家の深層に潜むもの

大正天皇亡き後、貞明皇后が実際には君臨していた(昭和天皇実録貞明皇后実録が公開される前の小説だが、公開後、戦地から帰ってきた軍人が両方に報告に訪れるが、皇后の方が遥かに長時間話していることが分かっている)、貞明皇后秩父宮は非常に親しい(逆に言うと、昭和天皇貞明皇后の間に確執があった)、という二つを柱に、昭和史のタブーに挑んだ未完の小説。発掘した資料をもとに歴史に忠実に向き合い、昭和史家としての清張はいまなお解明されない天皇制の深層を見据えようとしたスケールの大きな思想家として見ることが必要だと著者は指摘するが、そのように清張を捉えたことがなかったので、とてもびっくりした。

 著者による今回の清張スペシャルの内容はとても充実しており、読んでいて楽しかった。