ルソー『エミール』 自分のために生き、みんなのために生きる 西研

2017年8月25日第1刷発行 2021年5月20日第4刷発行

 

第1編 エミールが0歳からほぼ1歳頃までの、乳幼児期

第2編 口がきけるようになる1歳頃から12歳頃までの、児童期・少年前期

第3編 12歳頃から15歳までの、少年後期

第4編 15歳から20歳までの、思春期・青年期

第5編 20歳以降お、青年期最後の時期

 

 子どもの発達には段階があり、それぞれに応じた相応しい教育があるはずだという考え方を最も早く述べた思想家。「自然の教育」「人間の教育」「事物の教育」のうち「自然の教育」が柱であり、後者の2つは自然の発達段階に沿うように行われなくてはならない。自分を測る基準となる軸を自分のなかに持つ、同時に他者への共感能力に基づいた公共性を持つ、それらを持った上で民主的な社会の一員として互いの意見を出し合いながら、みんなの利益となる「一般意志」を取り出してルールをつくる。

 ルソーは少年前期までは肉体の感覚と運動を育てることが教育の中心だとする。まだ本を読ませることはしない。またほめて評価するということを避ける。このあたりはルソー特有の教育論であり、異論はありそうだ。好奇心を刺激し、有用なものの学習が少年後期から始まる。さらに社会が分業によって成り立っていること、すなわち「相互依存」の関係で社会が成り立っていることを学ばせる。このようなルソーの問題発見・解決型学習の始まりは、「子ども中心主義」を提唱したデューイに先駆けをしたものと位置付ける。そして有用性の教育の段階にきて、エミールに初めて与えられるのが『ロビンソン・クルーソー』。

 思春期・青年期になって、自己愛と自尊心を区別した上で、前者を重視する。そして他人の幸せにつながることをすることで自分も幸せになるという生き方を説く(西さんの捉え方のようです)。

 青年期最後の時期に家庭教師がエミールに語る言葉は説得的のように思われる。「わが子よ、勇気がなければ幸福は得られないし、戦いなしに美徳はありえない。『徳』ということばは『力』からきている。力はあらゆる美徳のもとになるものだ」

 最後に、西さんは「自由に生きられるための条件を考える」の項で、①やりたいこととめがけるべき価値をもつ②将来のために役立つ技能・知識を身につける③価値を吟味する力と自治しうる力を育てる、というの自身の考えであると述べたうえで、エミールとの共通点に触れ、エミールが説く原理・思想は古くなっていない、現代社会においても深い指針を示していると結んでいる。

 それにしても、哲学というのは、難しい。分かったような気になった箇所だけ抜き書きしたが、全体としての整合性が自分に取れているのか、自信がない。でも、古典的名著を西さんの解説入りで読めた、というのはちょっとした満足感・充実感が得られることは間違いないですね。