ガリヴァー旅行記 スウィフト作 中野好夫訳

1951年4月20日第1刷発行 2001年3月16日初版第1刷発行

2011年3月15日初版第9刷発行

 

リリパット(小人国)渡航記とブロブディンナグ(大人国)渡航記からなる。大人になって初めてガリヴァー旅行記を読んだ。今まで子供向けの話だと思っていたが、実は当時のイギリス社会を風刺する小説だったとは。これを読むまで知らなかった。

普通の人が小人の世界に迷い込み(前者)、今後は巨人の世界に迷い込む(後者)。個人的には前者より、後者の話の方がずっと面白かった。これこそ大人が読むべき小説。

自分が小人で(実際には何も変わっていないのだが)、周りが巨人だらけになった景色を絶えず見ていると、再び元の世界に戻っても、すぐには感覚が元に戻らない。

それだけではなく、巨人の世界の王様に、主人公が本国の話を聞かせると、本国の価値観がいかに歪んだものであるかが読者に分かるように内容が構成されている。要するにどっぷりと現在社会に浸かってしまっている現代人の感覚はあくまでも現代人の感覚なのであって、実は酔っ払っていることに本人が気づかないでいるという風刺的意味合いが強い。とりわけ火薬の話、すなわち人を大勢殺せる武器は全く必要なく「このような機械の発明こそは、人類の敵である。なにかの悪魔のしわざにちがいない」と語る王様こそ全うな感覚の持ち主であると読者に言外に語り掛けている。そして王様は「ひどくわたしたちの知恵を軽蔑なさったようでした。君主にしても、大臣にしても、秘密、術策、陰謀などを用いる人間は、大きらいだし、軽蔑すると、はっきりいわれました」というのは、現代社会の中では知恵者と思われている人への、筆者の強烈な風刺的表現であることが端的に見て取れる。そんなわけで、決してこの小説は子供向けではなく、分別ある大人こそが読むべきものでした。