ジュリアス・シーザー ウィリアム・シェイクスピア 原作 小田島雄志 文

2016年9月初版第1刷発行

 

紀元前44年3月15日、軍人から政治家になり、いよいよ皇帝になる、その日、まさにこれからというタイミングで、シーザーは、議事堂の中で、反対派から刃を次から次へと突き刺され、しかも我が子のごとく愛情を注いできたブルータスからも刺され、「おまえもか、ブルータス!」と絞り出すような声を発して死んでいった。裏切り者にあった時のセリフとしてこの言葉は定番となり、知らない人は誰もいない。

ところが、この本の圧巻なのは、この後の場面である。大勢集まっていた市民の前でブルータスがなぜシーザーを殺害したのか演説する。そして「私はローマのために最愛の友を刺した、その同じ刃を、もし祖国が私の死を必要とするならば、みずからこの胸に突きつけるだろう」と結ぶ。ブルータスは真にローマのことを思って独裁者として君臨するであろうシーザーを刃にかけたと皆一旦は信用した。この後、シーザーにかわいがられていたアントニーが演説し、ブルータスは公明正大な人物だと持ち上げつつ、シーザーに本当に野心があったのだろうかと疑問を投げかけつつ、シーザーが遺した遺書を読みあげ、シーザーに野心がなかったことを明るみにした。これにより市民は暴徒と化し、ローマは分裂し、ブルータス軍とアントニー軍の戦争となり、ブルータス軍は敗れる。アントニーはブルータスの最後を聞くと「彼こそは一味の中でももっとも高潔なローマ人だった。彼だけは別にして、共謀者どもはすべて、大シーザーへの憎しみからこの挙に出た。彼だけは、いささかも私心をまじえず、ひらすら万人のためを思って一味に加わった。その生涯は高雅、その人柄は円満な調和に満ち、そのために大自然も立って、全世界に向かい、叫びうるはずだ、『彼こそは人間の中の人間であった!』と」とのはなむけの言葉を投げかけて終わる。

結局、ジュリアス・シーザーというタイトルだが、中味はブルータスが悲劇の主人公になっている。シェークスピア独特の言い回しが随所に散りばめられているので、英語の原文で味わえるほどに英語力が身についたら、是非とも英語で読んでみたい一冊。