2021年8月11日 第1刷発行
まえがき
第1章 アルジェの青春―太陽と死の誘惑
第2章 闘う新聞記者―現実へのコミットメント
第3章 衝撃の作家デビューー『異邦人』の世界
『異邦人』という小説のあらすじを追っても仕方がない。
筆者は、小説に込められた「不条理」(殺人の動機が太陽のせいだと法廷で述べる被告人のセリフが象徴的)に目を逸らす偽善は拒否する、三島由紀夫はそれにより初めて生身の人間の間に連帯感が生まれると喝破したと指摘する。
第4章 結核による追放―シーシュポスとは誰か
第5章 戦争への参加―レジスタンスの日々
第2次世界大戦に対し戦争反対の論陣を張るカミュ。地下新聞の編集長を務めながら、不条理を前にしても「神にすがってはいけない」、人間は〈いま・ここで〉自分の力を尽くして闘うほかない、というメッセージを込めた戯曲を書く。
第6章 演劇人としての成功―『カリギュラ』の二重性
原爆投下の2日後、「いまや機械文明はその野蛮さの最終段階に到達した」と批判。戯曲『カリギュラ』は、不条理との戦いが永遠に終わらないこと、ペストや独裁者のような災厄がつねに人間を狙っていることの二重の意味で「私はまだ生きている!」というセリフを理解すべきだとも。
第7章 小説家の賭けー『ペスト』の意味するもの
「不条理は何も教えない」とのカミュの言葉について、筆者は「ペストは世界の根源的な条件である不条理のひとつの表れであるにすぎず、そこから具体的な教訓をひき出すことはできない」としつつ、「人々はそうした不条理の諸相とその場その場で闘っていくほかないのであって、そこから不条理を乗りこえる普遍的な処方箋を提示することは不可能だという、苦渋に満ちた、しかし潔い断念が、この言葉にこめられたカミュの思いだという気がします」と述べる。
第8章 二度の舞台の陰で―『戒厳令』と『正義の人びと』
著者は「カミュは、戦争であれ、死刑であれ、あらゆるかたちの殺人に反対しています。しかし、ほとんど唯一の例外として、このカリャーエフのテロ殺人については肯定的な見方を示している」と。正義のための暴力が許されなければならない極限状態において、もし自分の暴力が一個の生命を犠牲にするならば、その代償として自分の生命を犠牲にすることは当然だとカミュは考えたという趣旨の分析をしている。
第9章 ふたつの苦い戦い―『反抗的人間』論争とアルジェリア戦争
サルトルとカミュの友情が絶縁していった経過をコンパクトにまとめている。
第10章 早すぎた晩年―孤独と栄光の果てに
1957年10月16日、ノーベル文学賞がカミュに授与されると発表され、その知らせを受けたとき、カミュは動揺し蒼ざめて「アンドレ・マルローが受賞するべきだったのに」と何度も繰り返したというというエピソードを紹介しつつ、当時、小説の執筆は出来ないという無力感と孤独に苛まれていたカミュの晩年を追っている。カミュは1960年1月4日に交通事故で46歳で亡くなる。
『異邦人』をまずは読んでみよう。