二都物語 チャールズ・ディケンズ 加賀山卓朗訳

平成 26 年 6 月 1 日発行

 フランス革命は、王侯貴族を庶民が打倒した市民革命として有名だし、これによって自由/平等/博愛という西洋の普遍的価値が樹立したと思っていた私にとって、フランス革命を背景にした本小説はフランス革命を断行した市民サイドとそれにより断罪された貴族サイドのいずれにも言葉にし尽せない悲劇が幾多溢れていたであろうことに思い至たらせてくれた貴重な一書でした。古今東西で最も読み継がれた小説と言われる所以を肌感覚で少し理解できたように思います。660 頁という大部な小説ですが、お得感満載間違いなく、勿論、ストーリー展開も抜群に面白いと思います。

 

 さてストーリーは次のとおりです。

 イギリスのテルソン銀行の行員ローリーが、フランスのワイン店ドファルジュ家の屋根裏部屋で暮らしていたイギリス人で廃人同様のように靴をひたすら作り続けていたマネット医師を助け、マネット医師とその娘二人が、イギリスにて安穏な生活ができるように支援する(第1部「人生に蘇る」)。

 イギリスの場面に移った後、ダーネイという青年が冤罪で裁判にかけられるものの、カートンという青年と大変似ていたことに気付いた弁護士ストライヴァーがダーネイの無罪を勝ち取る。その後、心の綺麗なダーネイはマネット医師や娘と親しくなり、父親に許されてダーネイは娘と結婚する。二人が結婚した後、ダーネイは人を助けるためにフランスに渡らざるを得なくなる(第2部「金の糸」)。ここまでは普通の物語。

 ところが、第3部「嵐のあと」から怒涛の展開が待っています。ダーネイの叔父はフランスの有力貴族エヴレモント侯爵。フランスに到着した途端、ダーネイは不運な運命に見舞われる。エブレモント侯爵はマネット医師が住んでいたドファルジュの妻の姉家族を惨殺し、ドファルジュ夫妻から強い怨みを買い、ダーネイを強く憎む。マネット医師が廃人同様になったのも実はエブルモント侯爵が口封じのために18年もの間投獄したからだった。そんなことを露知らないダーネイは再び裁判にかけられる。ここで奇跡の復活を遂げて多くの人々から信頼を勝ち得たマネット医師の証言により再びダーネイは釈放される。が、再度ダーネイがフランスに渡り、しかもかつて義父マネット医師が投獄されていた最中に詳細にエブルモント侯爵の事件を告発したメモを残し、そのメモには侯爵の家族を含めて極刑に処すべきことが書かれていたために再逮捕され、遂には絞首刑の言い渡しを受けるに至る。さて、この後、物語は更にカートンに特別な役割を与えて再登場させます。カートンはかつてマネット娘を愛していて告白したことがあったが、自分ではマネット娘を幸せにできないと思って身を引いたことがあり、ダーネイが断頭台に上る直前で、瓜二つの顔を持つ男としてダーネイの身代わりになろうとするのです・・

 フランス革命は、貴族が市民を嬲り殺し、その市民の怒りが爆発して貴族を次々にギロチンにかけるわけですが、実は、その背後に多くの恋あり、友情あり、復讐あり、交錯する人間模様を描きながら、ぐいぐい読者を引きつけ、物語がテンポよく展開していきます。解説には「復活」という言葉がキーワードとして説明されています(マネット医師の獄中からの「甦り」、ダーネイの「甦り」、カートンの、ある意味での「甦り」、これらをキリストの「復活」というヨハネ福音書の一節に重ねるような解説だったと思います)。が、難しく考えず、エンターテイメントとして、面白く読むことが十分にできる小説であり、古典であり、名作です。もっと早くに読んでおけば良かったと少々後悔を込めてコメントします。