ツツ大主教 デイビッド・ウィナー著 箕浦万里子訳 南アフリカの黒人差別・アパルトヘイト(人種隔離)政策に対してたたかう勇敢な大主教

1991年11月1刷 1996年4月5刷

 

マンデラノーベル平和賞を受賞する10年近くも前に、南アフリカアパルトヘイトと戦いノーベル平和賞を受賞していたのがツツ大主教1984年10月15日受賞)。マンデラが釈放されるまでの大きな道筋を作り、アパルトヘイト廃止に向けた運動を大主教の立場で長年にわたって貫いた姿勢が高く評価されたのだと思う。南アフリカといえば27年もの長い間投獄されていたマンデラが有名だが、本書でツツ大主教のような人物がいたことを私は知るに至った。アパルトヘイトがどれだけ酷い制度かについては知っていたつもりだったが、南アフリカで行われていた黒人差別は今の人々からすると考えられない位に非人道的な仕打ちであったことを改めて痛感。人口のたった5分の1に過ぎない白人は殆どの土地を自分たちのものにし、黒人から参政権を取り上げ、住む場所を取り上げ(黒人にはわずか13%の土地のみを与える)、裁判もなく次々と黒人を逮捕し、時に武器を持たない黒人が平和デモを行っていた最中に警官が発砲して69名の黒人を射殺するとうシャープヴィル大虐殺事件(1960年3月21日)が起き、また警官が平和的に抗議をしていた子どもたちに銃を向けて3週間のうちに600人程を殺害する事件(ソウェト事件、1976年6月16日)が起き、その中にあってツツ大司教は、とこまでも武力で立ち向かうのではなく、平和裏にアパルトヘイトを終わらせるために対話や言葉をもって人々を説得しようと努力し続ける。時の政府は、情報操作を行い、国内でどれだけ酷いことをしているかを知らせず、そんな中、ツツは「アパルトヘイトは、聖書の言葉やキリスト教精神とくいちがっています。だからこそ、完全なる悪であり、不道徳なのです」と訴え、海外にはアパルトヘイトに反対するために南アフリカと貿易をしないでくださいと訴える。また白人のために祈りますとも。その過程でノーベル平和賞を受賞し、更に大主教に就任して、益々影響力をもって活動している、という場面で、この本は終わります。最後の解説で1991年にアパルトヘイトの3つの柱となっていた法律が廃止されたことに触れられるものの、まだ白人と黒人が互いに尊敬しあっていく社会は実現できていないので、真の自由と平和が訪れることを祈ってやまないという言葉で締めくくられている。

マンデラが大統領となり、虹がかけられたように思ったが、なかなか簡単には虹の国は実現していない。今も大変な最中にある南アフリカ。歴史・人種を学ばなければ、世界のあちこちで起きている根深い問題を洞察することもできないし、ましてや行動を起こすこともできない。もっと様々なことを学んでいかなくてはいけないと痛切に感じました。