義経千本桜  越水利江子

2018 年 12 月 31 日第 1 刷発行

 「太平記」より遥かに面白い。どうしてもっと早く読んでおかなかったのだろう、と悔やまれる。文楽でも歌舞伎でも有名な演目なので、必ず観てみたい。

 冒頭は、出家することを約束して殺されずに済んだ義経の母が義経鞍馬寺に預け、そこで子狐を助ける場面から始まる。また鞍馬寺を出て五条橋で弁慶とすれ違う場面も出てくる。この子狐も清盛も後々に重要な役割があることが分かるのだが、後半にならないと、その種明かしはされない。

 さて、「遮那王」こと義経は密かに鞍馬を抜け、元服を独り出迎え、奥州・藤原秀衡の下で馬術を学び、馳弓の修行をして青年へと成長する。時は平家打倒の令旨が下され、兄・頼朝は源氏の総大将となり、義経は頼朝の下に馳せ参じ、弁慶もまたその直後に義経の下に馳せ参じる。副将・義経は京で勝手な振舞いをしていた同じ源氏の木曽義仲を討ち、有名な鵯越の奇襲で平家を大敗に追い込み、壇之浦まで後退した平家は、平教経、安徳天皇もろとも海中の泡となって消えていった。日照り続きの京では雨乞いのため 99 人の白拍子が舞い続けたが、最後に静が舞うと雨が落ち、京の日照りを救う。静と義経は互いに恋焦がれ、家臣佐藤忠信が間を取り持ち、静御前と結ばれる。また大勝利を収めた義経には朝廷から九郎判官という官位を与えられ、「初音の鼓」を授けられ、堀川館に飾ることになる。これが兄の逆鱗に触れ、兄の追手から逃れるために京を離れる。その際、義経と行動を共にしたいと切に願う静御前を、義経は安全な京に残そうとすると、そこに忠信が奥州から戻って静御前を守ると約束してくれたので、義経は京を離れることに。吉野川に身を潜めていた義経の下に静御前と忠信が訪れ、同時にここに本物の忠信が現れる。すると静御前と一緒にいた忠信は姿を一旦は消すものの、静御前が初音の鼓を鳴らすと子狐忠信は自らの正体を明らかにする。初音の鼓は子狐の父と母の生き皮にて作られたものであり、自分はその鼓の子であることを血の涙を流しながら打ち明ける。これを聞いた義経は鞍馬の子狐ではと思うが、口には出さず、桜吹雪が舞う中で子狐が鼓を戴いてほおずりする。その中、義経討伐のために兄の討伐軍が吉野山に寄せ来たり、子狐は通力を使って足止めを食らわせる。討伐軍の中に清盛の弟・教盛の嫡男・教経が横川覚範を名乗って登場し、義経と対峙するも、桜吹雪が舞い散る中、「散るまで待つのが世のなさけ」と、勝負を持ち越しにして、桜舞い散る中で幕が下りる。という、まあ、かなり荒っぽいまとめ方ですが、ざっと、こんな感じのお話です。

 判官びいきという言葉の由来や、前々から義経千本桜という演目があるのは知っていましたが、義経千本桜というのは、とても面白いストーリーです。義経が頼朝よりも日本人に愛される理由もわかる気がします。最後は兄に討たれ 31 歳で亡くなる悲劇の義経ですが、義経の方が日本人の感性にきっとあうんでしょうね。