希望と幸福  ヒルティの言葉  秋山英夫(訳編)

1984 年 1 月 30 日初版第 1 刷発行 1992 年 7 月 30 日新装版第 1 刷発行

 

「第1部 ヒルティの言葉」から

人間のあらゆる性質のなかで、嫉妬は最もいまわしい性質であり、虚栄は最も危険な性質である。この二匹の心中のヘビから解放されることは、すばらしい快感である。ただし、それにかわって他の二匹のヘビ、すなわち人間軽侮と傲慢が心に巣くって、前の二匹を追い出したのでなければ。ところが、しっとと虚栄から解放された人たちには、これが普通のことなのだ。自己欺瞞におちいらぬよう、この点に用心するがよい

 

すべての演説において一番肝心なことは、内面に確信があるということ、話し手と、その語ることばとが、完全に内面的に一致しているということである。自分でも信じていない事を口にしたり、あるいは本当によくわかっていないこと、たとえば、講演のためににわかに無理をしてつめこんだようなことをしゃべる場合には、講演者自体に、心からの感動が欠けているのであり、同時に、精神の確かさと自由を欠いているのだ。ところが、内面的感動や精神的確かさと自由といったものが寄り集まって、はじめて本当のスピーチができるのである。話す人自身のうちに真理があることーその真理を固く信じていることー話者自身それに打たれていることー、こうしたことは、どのようなスピーチの場合でも、感銘をあたえるゆえんのものであり、しかもそれはどんな学問のない聴衆にでも、勘でわかることなのだ。だから話す人にとっての第一の規則は、「自分の信じていること、あるいは、知っていることだけを口にすべきである。つまり、自分でもお腹に入らぬようなことは口にしてはならぬ、そんなものはすぐ見破られる」ということになる。

 

「形容詞は名詞の敵である。」とくに演説においてはそうである。

 

「第2部 ヒルティの愛した言葉」から

羊はどんな草和を食ったかを羊飼いに見せるために、草を吐き出して見せることはない。飼料を消化して、乳を出すのだ。それと同じように、君は俗人に君の原理を示すべきではなくて、本当にそれを消化したかぎりにおいて、その原理から出てくる行為を示すべきである。

 

あとがきによると、ヒルティの最大の愛読書は『聖書』。それ以外に彼が影響を受けたのはダンテの『神曲』、エピクテートスの『語録』、オリヴァー・クロムウェルの書簡と演説、バンヤンの『天路歴程』、ブース夫人伝など。聖書の言葉やキリスト教の理解がないと、理解が覚束ない箇所も結構あったが、それがなくとも唸るような箴言が沢山込められている。