ジャン・クリストフ(下) ロマン・ローラン  豊島与志雄・大蔵宏之訳

1967 年 1 月初版発行 1987 年 10 月第 17 刷発行

下巻は、アントアネット、家の中、女友だち、燃えるいばら、新しい日で完結。
上巻より、ぐっと読み易い。感情移入し易くなっている。

 アントアネット:銀行家を父に持つものの、投機に手を出し破産して、自殺する。オリビエの姉のアントアネットは、オリビエを学校に入学させるために身を粉にして働く。そんな最中、上巻に登場するように、クリストフから誘われて、ハムレットの劇を鑑賞する。姉弟はパリの演奏会に出て聴衆に野次られているクリストフを見かけ擁護するとともに、アントアネットはドイツで会った人だと気づく。一浪して弟は合格するものの、姉は死んでしまう。姉の死後、クリストフに宛てた姉の手紙を読んだオリビエは、姉の思いを知るとともにクリストフと再会し、二人の親友関係が始まる。

 家の中:6 階建ての一室で貧乏ながらもクリストフとオリビエの同居生活が始まる。強靭な精神力をもったクリストフと知性豊かなオリビエは互いを必要としていた。住人の様々な描写が続く。母の危篤を知らせを受けたクリストフをドイツに帰すためにオリビア金策をしてドイツに帰す。クリストフが到着すると母は満足そうにして死ぬ。その直後にオリビアも駆けつける。

 女友だち:クリストフの応援を受けてオリビエとジャックリーヌの二人は結婚する。ピアニストのセシルにクリストフはレッスンを教えるが、恋愛には発展しなかった。やがてオリビエとジャックリーヌは別れてしまう。クリストフを助けたイタリア人のグラチアはかつて少女時代にクリストフから影響を受けたことを、夫と一緒にアメリカに旅立つ直前にクリストフに告げる。クリストフはグラチアが結婚していたことを知り失恋する。オリビエはようやく絶望の淵から元気を取り戻す。

 燃えるいばら:メーデーの日にオリビエを誘って外出したクリストフは、オリビエが少年を助けようと群衆の中に分け入ったところ、ちょっとした暴動となり、警官の剣先がオリビエの胸を貫いてしまう。クリストフは警官を殺してしまい、スイスに亡命してオリビエと再会するつもりだったのが、オリビエが死んでしまったことを聞かされる。同郷の医師ブラウンに助けられるも、その妻アンナと愛し合うようになり、罪悪感を感じたクリストフとアンナは心中を図るが、果たされることはなかった。ブラウンの家を飛び出たクリストフはオリビエの子を育てることを想いつくとともに、どん底にあえいでいたクリストフが神に祈る中で精神的に突然の復活を告げる。

 新しい日:グラチアと再会したクリストフは、互いに年老いていた。しかし、クリストフはグラチアに対し愛情を抱く。グラチアはクリストフの気持ちを知りつつ友だちとしての関係を続けようとする。再びクリストフは失恋の憂き目にあう。そんな時、オリビエの息子ジョルジュが突然クリストフの前に現れる。グラチアは 11 歳の娘と 9 歳の息子を連れてクリストフの前に現れ、クリストフと結婚を考え始めるが、クリストフを嫌う息子が病死し、グラチアも病死してしまう。このころ作った交響曲は「当時の音楽上のあらゆる美しい力の結合が、実現されていた。陰影と重厚さのある学者的なドイツの思想、情熱的なイタリアの旋律、こまやかな律動と、やわらかい和声に富んだフランスの才気が結合されていた」。イタリア人のグラチアの娘とフランス人のオリビエの息子がドイツ人のクリストフの下に通うようになり、二人は結婚する。そしてクリストフは亡くなる。

おそらくこの 3 国の平和的な関係こそがローランの平和的願望だったのではないだろうか。斎藤正直(明治大学教授)の解説によると、クリストフのドイツ読み、クラフトという姓はドイツ語では「力」を意味し、彼の親友であるフランス人オリビエの名はフランス文化の伝統として「知識」を表し、イタリア人グラチアの名は「神の愛」を意味するのだそうだ。力と愛と知識との完全な結合、これこそ全人類が国境をこえて永遠に強くしっかりと手を結び合うことによってこそ、全世界の平和がきずかれるのだということをこの小説を通して世界の人々に教えようとした、と。