愛の妖精 ジョルジュ・サンド 足沢良子 

1973年1月30日第1刷発行 1986年9月30日第14刷発行

 

19世紀生まれのフランス作家。無名だったショパン、リストの天分を見つけ出して紹介した。動乱の時代で人々の心がすさんでいる時には、なごやかな心あたたまる物語を書いて人の心をなぐさめることが芸術家の使命ではないのだろうかと考えて、人生の後半は創作に専念する。その中で生まれたのが「愛の妖精」をはじめとする田園小説。愛の妖精は2,3カ月で書き上げる。

物語の前半は裕福な家庭で生まれた双子の兄弟ランドリーとシルヴィネだが、別々に暮らす。シルビィネは成長するとともにランドリーに嫉妬し、ランドリーは健全に育っていく。ある時失踪したシルビィネをファデットの助けもあって救出したランドリーは村のお祭りの際にファデットと踊ることを約束させられる。ファデットは高慢に見えたランドリーの鼻をへし折ろうと当初は考えていたが、約束を守りファデットがいじめられている時には助ける勇気を持ったファデットにランドリーは好意を抱く。ファデットの「あんたが足で踏んづけるようなつまらない草でも、それがなんにきくかちゃんと知っているわ。だから、その草のききめがわかると、つまらない草の匂いや形をばかにすることはできなくなるの。こんなことを言うのも、ちょっとあんたに、あることを考えてもらいたいからよ。それは、人間にも草花にも言えることなんだけど。つまりね、みかけがきれいでないものを、みんなばかにしすぎるってことなの。そのために、それのもってる、よいところを見のがしてしまってるのよ」の言葉は印象的だ。ファデットとランドリーは友達になることを約束する。しかし直後からランドリーはみすぼらしいファデットを瞬間的にも好意を抱いたことに恥ずかしさを感じる。ファデットはランドリーと当初躍る約束をしていた美しいマドレーヌにどうしてランドリーが自分と躍ってくれたのか事の経緯を話して仲直りするよう伝える。その話を聞いたランドリーはファデットの心が美しいことを改めて確信し、ファデットが普段連れ歩いているみすぼらしい弟ジャネーをどうして面倒見ることにしているのかの理由も聞いてファデットと弟が周りから言われているほどに酷い人間ではなく外見から判断して本質を見誤っていることに気付いていく。またファデットがきちんとした身だしなみをすれば美しくなるとも話すとファデットもそれに応えてランドリーがファデットと気づかないくらい美しい女性に変貌する。しかしファデットはランドリーの事を思い、出来るだけ会わないようにする。ランドリーがファデットとようやく話しができた場面にシルビィネが出くわし、自分より仲のよい話相手がいることに嫉妬する。又二人の仲を快く思わない、否、自分にひれ伏すことがないランドリーにいらだちを感じたマドレーヌは二人の仲を町中に広めて、ついにランドリーの父親の耳に入って、ファデットの母親が良くない人であり、ファデット自身も良くない女性であるからつき合うのをやめるよう説得する。これにランドリーは腹を立て父と対立。ファデットは別の町に奉公に出てしばらくランドリーと会わない決意を固め、そのことをランドリーに伝える。ランドリーは反対するが、ファデットは今から5年も前からランドリーのことが好きで、奉公に出て周囲が認めてくれる女性になって戻ってくることを告げ、その決意の固さと純潔さにランドリーは感動する。

ファデットは育ての親が危篤だと聞いて奉公先から帰ってくる。しかし亡くなってしまう。実は沢山の財産を残して。誰に相談してよいか分からないファデットはランドリーの父親に相談し、父親の言うとおり、誰にも財産のことは言わないことを約束する。父親はファデットの奉公先での仕事ぶりに非の打ちどころがないことを確認し、ランドリーの妻として迎えることになる。一方、シルビィネはランドリーを奪ったファデットを憎み精神的な苦痛から体調を崩し病気になる。それでもファデットは献身的な看病を続けるが、ある時堪忍袋の緒が切れ、シルビィネの病は心のねじ曲がった精神から来ている、異常な嫉妬心を自制できず、周りが自分を心配して言うことを聞いてくれるのを願っている根性曲がりだと痛烈に叱咤し、目が覚めたシルビィネは元気を取り戻す。ランドリーとファデットはめでたく結婚し、子を授かる。ハピーエンドで終わるかと思いきやシルビィネが突然志願兵になると言い出し、戦争で戦果を挙げて大尉にまでのぼりつめ、最高の勲章を得るまでに成長を遂げる。なぜ突然家を出て軍人になったのか。ファデットを好きになってしまった自分が家を出る必要があったからだとファデットは打ち明けられ、ランドリーの母親はきっとそういうことだろうと薄々気づいていたのだと告白し、それを聞いたランドリーの父親は以前シルビィネは人を好きになったらランドリーのことを忘れて生涯その人しか愛さないだろうとお湯屋のおばあんから言われたが、どうやら一生結婚できなさそうだな、と言ってジエンド。

「愛の妖精」というタイトルはなかなか良いタイトルだ。なごやかな心温まる物語というのはこういう小説をいうのだろうなあ。