強力伝 新田次郎,  私の大阪八景 田辺聖子

1988年4月20日第1刷発行 1989年4月4日第2刷発行

 

山岳小説の開拓者である新田次郎は「強力伝」で第34回直木賞(昭和31年)を受賞した。強力とは登山者の荷物などを背負い、山を案内するガイドのこと。山男の小宮正作が巨石を担ぎ上げた挙句死を予感するまでを描いている。この正作を見守るのが石田である。巻末の解説・小松伸六によると、石田は新田次郎の分身ともいえるとする。

 

私の大阪八景 田辺聖子

1988年4月20日第1刷発行 1989年4月4日第2刷発行

なかなかユーモアがあり、しかも辛辣な表現が散りばめられていて面白い。昭和40年刊行ではあるが、「東条首相なんて、インク瓶にヒゲがはえたような顔しているわね。阿呆みたいなことばっかし考えるのね、キライ」という表現に遭遇して思わずニンマリっしてしまう、という感じだ。学校の先生が「ハタチになるまでに戦争終わればいいわねえ。いえ、きっと終わるわよ、どっちかにかたづくわ。ねえ」というと、主人公のトキコが「神州不滅だ‼」とどなりたかった、と「神州不滅だ‼」だけポイントを大きくして載せる辺りなど、いい線いっている。「うちら、女はアレのとき月一ぺんはナニクワヌ顔をするでしょう。あのときいつも女はキタナイナア、とつくづく思うのよ、うそをつくな、といわれてもあの時はみんな、ウソついて知らん顔するわね。誰もそれらしい風は見せへんわね。そこがシタタカ者で食ワセ者の本質やと思えへん?すごく大きなうそつきの真ン中に、そいつがでんと坐ってるかんじやわ」という表現はよくもこんな表現が出来るものだと半ば呆れ半ば感心した次第。なお着物が白いのはこれから婚家のどんな家風にも染めていただきます、というしるしだと言葉について「日本婦道の精髄の精神である」、と受けた上で、日本婦道を日本の婦人のとるべき態度という現代語訳が付されているのに少々驚いた。小松伸六の解説には、深読みすれば天皇制批判、風刺ともいえるが、メルヘン(童話)ふうに描いているので、あえっていや味がなく成功している、とあるが、どこをどう読んでも(深読みせずとも)風刺であろう。