飛ぶ教室 エーリッヒ=ケストナー

2011年1月17日第1刷発行

 

 表紙裏に「これは血も涙もある温かい物語です。そしておもしろさとユーモアのうちに、友情と正義と勇気のたいせつさを身にしみて教えてくれます・・正義とはいっても、彼はただ、人間として卑しいことをするな、恥を知る人間であれ、といっているのです。ともあれ、これは少年文学の傑作であり、少年たちの理想主義に訴えるものを多分に持った作品です」とある。巻末に阿川佐和子さんの「『飛ぶ教室』と私」と題するエッセイのようなものが掲載されており、そこでは阿川さんがかつて小学校図書館でアルバイトをしていた時に生徒から相談を受けるたびにこの「飛ぶ教室」を一番に薦めていたというエピソードが紹介されていた。

 個性豊かな少年たちとともにベク先生と禁煙さんの存在は「憎いほどの魅力」に溢れている。そしてケストナーの「・・この機会に私は皆さんに心からお願いします。皆さんの子供の頃を決して忘れないで、と。約束してくれますか。誓って?・・・。」という文章を紹介し、この言葉を大切にしてきた阿川さんが「約束します。なるべくね」と答えることにしているらしく、相手が大人であっても、この「飛ぶ教室」を推薦するだろうという文で締めくくっている。

 この阿川さんの巻末を読んで、私も本文も読んでみようという気になって今回初めて読んだ。

 前半は「飛ぶ教室」という台本を使って4人の生徒たちが主人公になって劇を演じようとする物語。ちょっとつまらなかったので、どうして阿川さんがそこまで褒めたのだろう?と思いつつ、後半に進むと、次第に正義先生ことベク先生と禁煙さんという、大人にしては珍しい位に子どもたちのことを良く分かっていて、子どもたちから信頼されている2人の大人が登場する。そして、この二人が子どものころから堅い太い絆で結ばれていて、それが主人公たちによってふたたび絆が甦るのと同時に、4人の少年のうちウリ―が臆病者のレッテルを覆そうと大胆な行動に出て大怪我をして劇に出られなくなったり、クリスマスに誰もが家に帰るのに一人貧乏過ぎて帰れないマルチンに汽車賃を与えて家に帰れるようにとりはからうベク先生の心憎い心遣いのシーンがあったり、マルチンと両親との久しぶりの再会の場面などなかなか見せ場が多くなり飽きさせない。

 ベク先生は、自らが子どもだった時にベク先生に影響を与えた先生の面影を忘れることなく、また親友だった禁煙さんのことも忘れることなく、かつまた子どもたちに影響を与える大人とはどうあるべきか?と問い続け、子どもたちには子どもの時に経験したことはいつまでも忘れないで欲しいという、子ども向けでありながら大人こそ忘れ去ってしまっていることを思い出させる、本当は大人が読むべきではないかと思わされた小説でした。

 阿川さんが子供だけでなく大人にも薦めたくなる理由が分かったような気がします。