お助け・三丁目が戦争です  筒井康隆

1986 年 2 月初版発行

お助け
 家族同人誌『NULL』に発表し、『宝石』に掲載された。宇宙飛行士として選抜試験と競争に勝ち残り毎日王特訓を受けている主人公が、宇宙意志の体現者となったかのように外界とのテンポがずれてしまい、最後には事故を起こし、トラックに引かれる瞬間に「神さま、お助けを!」と叫んで終わる。アインシュタインの相対性原理を人間関係に持ち込んだような小説。


句点と読点
 句読点はかえって現代人の読解力を衰えさせているという逆転の発想に基づくエッセイみたいなもの。巻末の黒沢浩の「現代の課題をふくんだ楽しい読物」によると芥川龍之介も「文部省の仮名遣改定案について」の中で句読点をうちかえって文章にたいする感覚が鈍ることへの警告と筒井康隆同様に述べている。

 

〈童話〉三丁目が戦争です
 三丁目の団地と住宅地との間で、住宅地の女の子たちが団地の公園を占拠したことがきっかけで、団地の子供たちの遊び場が奪われたことに団地のお父さんやお母さんがしゃしゃり出て、住宅地の子供たちを団地の公園に入れないようにすると、今度は住宅地の大人が報復として団地のポリバケツを壊し、するとそれに団地の大人たちがどうやって報復し返そうかと相談している矢先に、全国で団地と住宅地との間で戦争が起こり、この三丁目の団地でも戦争に発展してしまい、爆弾で団地の人々がみんな死んでしまい、住宅地の人々もみんな死んでしまう。著者は戦争の手前に戻って戦争は止めた方がいいので仲直りしたというストーリーにしようとするが、それはそれでおかしいのでやはり戦争した方がいいのかやめた方がいいのか、どっちが良いのか、皆さんが好きな方を選んでください、という。結局、「戦争をおそこさないほうが、ほんとはいいのです。だけど、戦争というのは、もとはといえば、ほんとうにつまらない、ちっぽけなことがきっかけになって、おこってしまうのです。おまけに、戦争がすきな人がいて、こういう人が、どうもこまりますね」と語って終わる。プーチンさん、本当にあなたのような人が困るんですよ。と言いたくなります。

〈エッセイ〉現代の言語感覚(抜粋)
 「どうも」「べつに」「前向き」は今の日本人がよく使う典型的な言葉だが、筒井康隆は鋭い分析を加えている。特に国会答弁の「前向きに検討します」という場合、もともと人は前向きに立っているので前進するかどうかわからん、「検討」は実行以前の行為なのでやるかやらないかわからんということだから、相手を揶揄した一種のギャクなのに、国会で大真面目に「前向き」が濫発されているという。