声に出して読みたい日本語  齋藤孝

2001年9月18日第1刷発行 2002年6月18日第62刷発行

 

表紙裏「いま、暗誦文化は絶滅の危機に瀕している。かつては、暗誦文化は隆盛を誇っていた。小学校の授業においても、暗誦や朗誦の比重は低くなってきているように思われる。・・・歴史のなかで吟味され生き抜いてきた名文、名文句を私たちのスタンダードとして選んだ。声に出して読み上げると、そのリズムやテンポのよさが身体に染み込んでくる。そして身体に活力を与える。それは、たとえしみじみしたものであっても、心の力につながってくる。(おわりにより)」

 

はじめに

 

一、腹から声を出す

「知らざあ言って聞かせやしょう」【歌舞伎】弁天娘女男白浪(白浪五人男)河竹黙阿弥

「どっどど どどうど どどうど どどう」 風の又三郎 宮沢賢治

「てまえ持ちいだしたるは、四六のがまだ」【大道芸】がまの油

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」 平家物語

「赤城の山も今夜を限り」【新国劇国定忠治 行友季風

「光る地面に竹が生え」 竹 萩原朔太郎

「旅ゆけば、駿河の国に茶の香り」 【浪曲森の石松 二代・広沢虎造

「弁静粛々夜河を過る」 【詩吟】不識庵幾山を撃つの図に題す 頼山陽

「山の動く日来る」 そぞろごと 与謝野晶子

「罷免出たる者は、此当りにかくれもない」 【狂言】すゑひろがり

「渭城の長雨軽を浥し」 【詩吟】元二の安西に使するを送る 王維

「観自在菩薩、行信般若波羅蜜多時」 【経文】般若波羅蜜多心教

 

二、あこがれに浮き立つ

「まだあげ初めし前髪の」 初恋 島崎藤村

「あかねさす紫野行き標野行き」 万葉集

不来方のお城の草に寝ころびて」 啄木歌集 石川啄木

「男もすなる日記といふものを」 土佐日記 紀貫之

「あづまぢの道のはてよりも」 更級日記 菅原孝標女

「こぼれ松葉をかきあつめ」 海べの戀 佐藤春夫

「あゝ麗しい距離」 母 吉田一穂

「幾時代かがありまして」 サーカス 中原中也

 

三、リズム・テンポに乗る

「驚き桃の木山椒の木」 付け足し言葉

「生麦生米生卵」 早口言葉

「揺籃のうたを、カナリヤが歌う、よ」 【唱歌】揺籃のうた 北原白秋

「あらまあ、金ちゃん、すまなかったねえ」 【落語】寿限無

「黄金虫は、金持ちだ」 【唱歌】黄金虫 野口雨情

「木 土 火 金 水」 五行・十干・十二支・十二か月

「せり なずな ごぎょう はこべら」 春の七草

「萩の花 尾花葛花」 秋の七草 『万葉集山上憶良

「痩蛙まけるな一茶是に有」 一茶俳句集 小林一茶

「熟監るに、戦闘ほど捷徑なるはなし」 浮世風呂 式亭三馬

「ゑけ 上がる三日月や」 【沖縄古代民謡】おもろさうし

 

四、しみじみ味わう

「牀前 月光を看る」 【漢詩】静夜思 李白

「今の世のわかき人々 われにな問ひそ」 震災 永井荷風

「此の世のなごり。夜もなごり」 【文楽曽根崎心中 近松門左衛門

「朝焼小焼だ 大漁だ」 大漁 金子みすゞ

「ゆく河の流れは絶えずして」 方丈記

春高楼の花の宴 めぐる盃かげさして」 荒城の月 土井晩翠

「国破れて山河あり 城春にして草木深し」 【漢詩】春望 杜甫

「むかし、をとこありけり」 伊勢物語

「月日は百代の過客にして」 おくのほそ道 松尾芭蕉

 

五、季節・情景を肌で感じる

「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ」 雪 三好達治

「春はあけぼの。やうやうしろくなり行く」 枕草子 清少納言

「うの花のにおう垣根に、時鳥」 【唱歌】夏は来ぬ 佐佐木信綱

「春の海終日のたりゝ哉」 蕪村俳句集 与謝蕪村

「春眠 暁を覚えず」 【漢詩】春暁 孟浩然

「春のうららの隅田川」 【唱歌】花 竹島羽衣

「廻れば大門の見返り柳いと長けれど」 たけくらべ 樋口一葉

「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」 正岡子規歌集・句集 正岡子規

「春すぎて夏きにけらし白砂の」 百人一首

 

六、芯が通る・腰肚を据える

「真人の息は踵を以てし」 荘子 荘子

秘すれば花なり」 風姿花伝 世阿弥

「千日の稽古を鍛とし」 五輪書 宮本武蔵

「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出来る」 道程 高村光太郎

「木里美しき欅胴、縁にはわざと赤樫を」 五重塔 幸田露伴

「構えて、まだまだ」「番数も取り進みましたるところ」 【相撲言葉】行司のかけ声・結びの一番

「心身脱落」 正法眼蔵 道元

「この心あながちに切なるもの」 正法眼蔵随聞記 懐奘編

高砂や、この浦舟に帆をあげて」 【能】高砂

「庭の砂は金銀の」 【能】鶴亀

 

七、身体に覚え込ませる・座右の銘

「子曰わく、学びて時に之を習う」 論語 孔子

「とうざい、とうざい。ひ〃のをしへ」 ひ〃のをしへ 福澤諭吉

「少年老い易く学成り難し」 【漢詩】偶成 朱熹

「つれゝなるまゝに、日くらし」 徒然草 吉田兼好

「善人なほもって往来を遂ぐ」 歎異抄 親鸞語録(唯円編)

「和 敬 清 寂」「茶は服のよきように点て」 四規七則 千利休

「犬も歩けば棒にあたる」「一寸先は闇」 いろはかるた

 

八、物語の世界に浸る

「未知がつづら折りになって、いよいよ天城峠に」 伊豆の踊子ほか 川端康成

「いまは昔、竹取の翁といふもの有りけり」 竹取物語

いづれの御時にか。女御・更衣あまた」 源氏物語 紫式部

「石炭をば早や積み果てつ」 舞姫ほか 森鴎外

「こんな夢を見た。腕組をして枕元に」 夢十夜ほか 夏目漱石

「銀の滴降る降るまわりに、金の滴」 【アイヌ神謡】銀の滴降る降るまわりに

「或日の事でございます。御釈迦様は極楽の」 蜘蛛の糸ほか 芥川龍之介

「向うの小沢に蛇が立って」 草迷宮 泉鏡花

「臣安萬侶言す」 古事記

「古に天地未だ剖れず」 日本書記

 

おわりに[身体をつくる日本語]

あとがき

 

朗誦・暗誦は、とんとご無沙汰です。昔覚えたものも、時の経過とともにすっかり忘れてしまっています。懐かしいものが沢山登場しています。これを機会にまた暗誦・朗誦してみたいと思います。