黒牢城 米澤穂信

2021年6月2日初版発行 2022年2月5日7版発行

 

第166回直木賞受賞作、第12回山田風太郎賞 W受賞

4大ミステリランキング制覇!「このミステリーがすごい!2022年版」国内編、週刊文春ミステリーベスト10国内部門、ミステリが読みたい!2022年版国内編、2022本格ミステリ・ベスト10国内ランキング、2021年歴史・時代小説ベスト3

 

帯封「信長に叛逆した荒木村重と囚われの黒田官兵衛 二人の推理が歴史を動かす」

吉川英治の「黒田如水」を以前に読んでいたので終章「果」の展開は十分予想できるものだった。ただ序章「因」に始まり第1章から第4章までの、村重と官兵衛の智謀戦は十分に読み応えがあった。何故に村重は官兵衛を生かしたまま牢に閉じ込めたのか、官兵衛が村重に最後の最後に授けた秘策の持つ意味を村重がどう読み解くのか。

また第1章から第4章までの謎解きもそれぞれ単発ミステリーとして十分楽しめるものになっている。自念を死に追いやった矢の傷跡は残れど矢が見つからない(第1章)、敵将・大津の首を取ったのは果たして誰なのか、決め手がなくて賞罰を明確にできない(第2章)、僧侶無辺に貴重な茶壷を託して光秀に密使を遣わしたものの城内で無辺が刺殺され茶壷が行方不明になる(第3章)、無辺と四郎介を殺した犯人が村重に暴かれた直後に犯人に落雷、ところがその直前、その犯人に向かって鉄砲弾が放たれていた。鉄砲を放ったのは一体誰だったのか(第4章)。その都度、村重から状況を聞かされて犯人のヒントを与える官兵衛の冴えわたる推理力に脱帽する。最後に籠城する有岡城で殿様村重の存在感が次第に軽くなっていく中で起死回生の手を授けられた村重が官兵衛の思惑を見破りつつその手に乗って毛利に走っていくのも妙味。最後は、官兵衛の「神の罰より主君の罰おそるべし。主君の罰より臣下百姓の罰おそるべし」の遺訓で締めくくられている。自己保身や名誉よりも、もっともっと大切なものがある、それを忘れてはならない、との戒めを、単なるミステリーではなく、歴史を通じて語らしめる筆力は、見事である。