言論統制というビジネス 新聞社史から消された「戦争」 里見脩

2021年8月25日発行

 

裏表紙に「第二次大戦後、新聞社はこぞって言い始めた。『軍部の弾圧で筆を曲げざるを得なかった』とー。しかし、それは真実か? 新聞の団体は、当局に迎合するだけの記者クラブを作り、政府の統制組織に人を送り込んで、自由な報道を自ら制限した。『報道報国』の名の下、『思想戦戦士』を自称しつつ、利益を追求したメディアの空白の歴史を検証する。」とある。かつて真正面からこの分野に切り込んだ研究者の論考は見たことがなく興味をそそられた。

 

目次を見るだけで、筆者の丹念な分析の跡が垣間見られる。時間のある時に改めてゆっくり読みたいと思う。いわゆる研究書の類なので、ざっと目を通すという読み方はできないので、読み込む時間を確保するのが大事だ。

 

プロローグ 戦争は新聞を肥らせる/政府、メディア、国民/メディアの矛盾を問い直す

第1章 一万三四二八紙新聞

    新聞の分布/全国紙と地方紙の格差/通信社の存在/岩永祐吉の動機/古野伊之助の来歴/ナショナル・ニュース・エージェンシーの誕生/私心なき策士/二つの言論統制

第2章 変貌する報道メディア

    非公式で誕生した情報委員会/変質した社論/肉弾と爆弾/「写真号外」というキラーコンテンツ/慰問で集めた購読者/地方紙の軍部批判/新聞資本主義/満州国通信社の設立/解体の危機

第3章 故草津通信社の誕生

    電通と陸軍/聯合と外務省/難航する統合交渉/陸軍の翻意と2.26事件/動き始めた内閣情報委員会/古野の人脈

第4章 実験場としての満州

    反日感情を抑えるために/関東軍と弘報協会の巧妙な仕掛け/言論統制の革新的見本/情報統制の最終形態

第5章 新聞参戦 「こんな程度でよいのか」/報道報国/兵器を献納する新聞社/同盟が作った新聞社と通信社

第6章 映画の統合 我国初の文化立法/「日本ニュース映画社」の設立/「欠くべからざる武器」としての映画

第7章 内閣情報局に埋め込まれた思惑 「死刑宣告の新聞」/内閣情報局の陣容/統制者となったメディア/陸軍の黒幕と呼ばれたメディア人/政府将校という実務家たち/革新官僚が描いた「公益」/同盟への補助金

第8章 自主統制の対価 吉積の書類綴/全国紙に挑んだ名古屋の「国策順応」/連盟が望んだ「好ましい統制」/植付けられた「統制の種」/古野の役割と思惑

第9章 新聞新

体制の副産物 明かされた新聞の実売数/販売競争の終焉/記者クラブの履歴/枠内に入った記者たち/思想戦戦士

第十章 統制の深化 日本中の新聞を一つにする/純粋なる公的機関としての新聞/目標より先に狙いをつけて撃て/くせ者たちの争い/入り乱れる思惑/緒方案の真意/四つの連動/削られた「統制」/日本新聞会という「私設新聞省」/資本と経営の分離/発表を待つだけの記者/売り上げを伸ばした共販制/南方占領地での宣撫と指導/史料1・2

第十一章 一県一紙の完成 現在の新聞社の由来/調整者古野の暗躍

第十二章 悪化する戦局の中っで 憲兵政治/東條首相との会談/緒方の情報局総裁就任/焼け太りの持分合同

第十三章 巣鴨プリズン 八月十五日の光景/原爆報道の抵抗/同盟の解体/巣鴨の弁明/新団体に残された火種/古野と正力

エピローグ 生き続ける「言論統制」/「一県一紙」という特権/「軽減税率」と「記者クラブ」の問題/「新聞資本主義」の克服

言論統制関連年表

参考文献一覧