爆弾 呉勝浩

2022年4月18日第1刷発行 2022年12月1日第6刷発行

 

帯封「『このミステリーがすごい!2023年版』(宝島社)国内編、ミステリが読みたい!2023年版」(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)国内篇 祝2冠第1位 正体不明の男が仕掛けた連続爆破事件。人質は、1400万人。謎を解く鍵は、4年前に起きた警察官の自殺にあった。」「爆発大ヒット中! 今年1番のミステリ‼有隣堂藤沢店 佐伯敦子さん 驚くほど完成された、ミステリのピースの数々 ジュンク堂書店吉祥寺店 田村知世さん まんまと罠にはまってしまっていた。紀伊國屋書店天王寺ミオ店 木曾由美子さん 面白すぎて一気読み コメリ書房鈴鹿店 森田洋子さん 微罪で逮捕された男が、秋原原の廃ビルで起きた爆発を“予言”した。あと2度あるという爆発を止めようと詰め寄る刑事。だが、男は巧みな話術でその正体すら掴ませない。そんな中、男が口にしたのは4年前に自殺した刑事の名前。警察が目を背けてきたそれが、事件を紐解く鍵か。タイムリミットが次々迫る中で巻き起こる、男と警察の頭脳戦。息もつかせぬノンストップ・ミステリー!」

 

これは、大当たりだった。

ジェフリー・ディーヴァーのスピード感も凄かったが、今回のはそれを遥かに超えるスピード感あふれる展開。しかも刑事が見えない犯人を追い詰めるというのではなく、目の前にいる犯人スズキタゴサクから聞かされる霊感?を頼りに、計画された爆破事件を事前に何とか食い止めようと必死にスズキのヒントを解こうとする。最初はスズキから真相を聞き出そうと取り調べに当たる等々力刑事。すぐさま特別犯係の清宮にバトンタッチしてスズキの言葉に隠されたヒントを手がかりに爆発現場を推理していく頭脳戦が展開されていく。これだけでも結構読み応えがあるのだが、本作は、そんなものはちょっとした下味しかない。

子どもの命とホームレスの命をどちらが大事で守るべきものかなんてことを大上段に振り翳すことなく、深層心理にあるものを抉り出す。結果、スズキの罠に嵌って暴力に訴えた清宮が最初にスズキにやられてしまう。清宮からバトンタッチした類家はずば抜けた天才的刑事。社会のモラルからはみ出した感覚を持ちながらも、社会と完全に絶縁したスズキとは異なり、社会の一線を越えずに見事な推理力を展開する。が、そこにいた別の刑事はスズキの手にまんまと乗せられ、同僚の刑事がスズキのトリックに罹って爆発現場で足を吹き飛ばされてしまう。その傍で彼に突き飛ばされて間一髪助かった女性刑事。

そして、この小説の一つの肝は、社会からつまはじきにされた人たちが大胆に社会に復讐するために連続爆破事件を仕掛けたというのが真相であることを後半から明らかにしていく。スズキとその爆弾事件とは一体どういう繋がりなのか。スズキはかなり早い時点で、野方警察で最も頼りにされていた優秀な長谷部刑事の名前を突然口にする。長谷部刑事は優秀であったが変態的性癖を持ちそれがスクープされ同僚から裏切りに遭い職を追われ自殺し、残された家族がバラバラになる。そんな家族とスズキとの接点は何か。家族と言っても妻もいれば娘もいれば息子もいる。娘は立ち直るが息子は立ち直ることができなかった。そんな息子を守るために母がしたことは何だったのか。その息子と母とスズキとの接点は?当初は予想だに出来ないストーリーが後半に待っていた。そんな絵解きをしながら、丸の内線で爆破事件が次々と起き東京都の人々はパニックになっていく。同時にスズキの2回にわたる犯行予告のSNSが拡散していく。同僚の足が捥がれて自分だけ助かった女性刑事がスズキの前に現れてスズキを拳銃で殺しにかかるが結局実行に至らず。そんな女性刑事が最後の場面で長谷部刑事の妻と一緒に野方警察に登場する。一体何のために妻が野方警察に現れるのか。自殺志願者を募るホームページで息子は同じような境遇の者たちと連続爆破事件を仕込み、それが明るみに出ることで再び長女の将来の芽を摘むことになるのを防ごうとして母は息子と共犯者を殺し、その息子の罪を肩代わりするために登場したのがスズキであり、スズキは自分が罪を引き受ける代わりに警察に出頭した。とこれだけでもなんちゅうストーリーを考えるんだ!と驚く。がさらに驚きは続く。スズキは母に最期の爆弾を託す。それをもって母はスズキのいる野方署に登場し、それを食い止めたのが女性刑事だったのだ。だがスズキが母親に渡した最後の爆弾はフェイク。母は捕まっても真実は言えない。そこまで計算していたスズキの悪魔性を類家は見破るのだ。刑事裁判でも母は否認しスズキは霊感と睡眠薬のせいだと主張して延々続く。類家は最後にカッコよく「俺は逃げないよ、残酷からも、綺麗ごとからも」とスズキに伝えて、話は終わる。

ジェットコースターを4回転位させられたストーリー展開だ。ミステリの中でも今年最高の一冊であることは間違いない。