東大講義 人間の現在① 脳を鍛える 立花隆

2000年3月30日発行

 

第1回 はじめに-開港にあたって、2,3の事柄

環境、私、宇宙

「はじめて経験」を前にしたきみたにに

3つのフェーズで考える

日本の理科教育の水準は19世紀以前だ

知の構造変化がすべてを動かす

第2回 大学は知の拡大再生産過程の最前線

    きみたちはまだ何者でもない

    自分の脳は自分で作れ

第3回 アインシュタインの脳を分析したら

    前頭葉にこそ人間は宿る

    脳にとっての「いい」環境

第4回 授業はサボるためにある

    わからないものこそ読んでみろ

    小林秀雄もたじろいだ

    正確という烈しい病

    R夫人への愛がヴァレリーを生んだ?

    20代の青年に、パラダイムの大転換が突然訪れた

    機械を疑え

第5回 学生時代のノートから 精神の革命、ルネサンス 自分のタイプを見つけろ

第6回 辞典をまるごと読んでみる 留年のススメ 教養とはリベラル・アーツ

第7回 このままじゃ、日本の「知」はダメになる サイエンスとテクノロジーリテラシー マクロな視点から総体を眺めてみれば

第8回 世界はすべてエネルギーの流れ 自己組織化原理は発見されるか ケンブリッジの夕食会

第9回 時間と空間の概念を覆したスーパー理論 相対性理論を武器に自然の秘密に迫る 宇宙の根本原理とは

第10回 世界の見方がすっかり変わった 常識の壁を打ち破る 恩師に叛旗を翻す 地球も砂糖粒も対称的にできている

第11回 対称性とはどういうものか 若き中国人科学者の挑戦 対称性の破れが世界を創った

第12回 百科事典で載る家系 覚えておくと便利な一言 小説家と脳医学者

 

最終講義よりも詳しい解説がなされている箇所をピックアップする。

第3回ではグリア細胞について豊富な図解と詳しい説明がなされている。アインシュタインの脳を研究したマリアン・クリーヴス・ダイアモンドによれば、ニューロンの数は普通の人と違わないがグリア細胞の数が同年齢の一般男性よりずっと多かった、特に39野(ブロードマンの脳地図番号とは違う)と呼ばれる頭頂葉連合野の部分(角回と呼ばれる、人間になって初めて発達した領域。感覚器官からの直接の入力がなく色々な連合野からの入力が集まってきて統合される、文字言語の中枢)にグリア細胞が多かったとのこと。著者はここで人間の意識が形成されているのではないかと推察する。

第4回はヴァレリーの「テスト氏との一夜」を深堀していく。小林秀雄の解釈が間違っているとか、いつもの鋭い切れ味で読み解いていく。ヴァレリーの並外れた才能を解説できる著者の頭脳には呆れるほど凄さを感じる。しかしそんなヴァレリーマラルメとランポーを知り詩人としての能力不足を痛感し筆を折る。知的クーデターが起きるのは19歳から24歳にかけて。分娩の苦しみに似た懊悩の果てに起きることであり、そういう苦しみが全くない人には一生起こらない。

第5回はジョルジュ・デュアメルの『アミエルの日記』『エラスムスまたは純粋観客』、中でもエラスムス(最初の人文主義者、ルネサンス期ヨーロッパ最大の文人、『痴愚神礼讃』の著者で、世界最初のベストセラー作家、宗教改革の先駆け)を深堀する。そして一流の野次馬の秘訣を開陳する。

第7回・第8回はC・P・スノー『二つの文化と科学革命』を深堀し、第9回・第10回は相対性理論を解説し、第10回後半で対称性の法則の入り口を解説。第11回で対称性の法則とヤンとリーによるパリティ非保存の証明という画期的実験を解説、第12回で再びスノーに戻るが、引き続き、アグノスティクという便利な言葉を生み出したT・H・ハックスレー(ジュリアン・ハックスレーの祖父)とジュリアン・ハックスレーとその弟オルダス・ハックスレー(『すばらしい新世界』)、アンドルー・フィールディング・ハックスレー(インパルスを生じさせるシステムを解明し、イオン濃度とインパルスの関係を図式した功績でノーベル賞受賞)の3兄弟の話に変わり、そこで終わる(第2巻『進化のコスモロジー』につづく、とある)。

最終講義では触れなかったり簡単にしか触れていなかった内容が盛り沢山に詰め込まれている。1997年6月から1998年6月までの12回の講義を1冊にまとめたもの。第2巻は2021年2月20日「サピエンスの未来」として刊行された。早速手にして読んでみたい!