氷川清話 夢酔独言 勝海舟/勝小吉 川崎宏編

2012年8月10日発行

 

政治的人間の面白さ - 『氷川清話』をめぐって  松本健一

 龍馬が師と仰いだのが勝海舟。姉に当てた手紙に「日本第一の人物といふ人の弟子になり」と書いている。父小吉の『夢酔独言』と血続きの臭いがする『氷川清話』。海舟は横井小楠西郷隆盛を高く評価。「横井の思想を、西郷の手で行われた」ら幕府は終わりだとみていた。非常時には予言的思想家、行動的志士、政治的人間の3種類の非常の人が必要とされる。海舟は政治的人間であった。荻生徂徠新井白石は実務を知った学者であり、政治的人間として自らを形成していったと海舟は見ていた。丸山真男荻生徂徠を近代政治思想の芽生えと評価。政治思想家に過ぎない福沢諭吉と政治的人間としての海舟。海舟は「尊王」か「佐幕」かと騒いでいるときに誰よりも先に(正確にいえば佐久間象山に次いで)「日本」に目覚めた国民だった。

 

氷川清話

 合作序言  吉本襄

 立身の数々を語る 貧乏暮し 池田利右衛門との遭遇 利右衛門の幼少期 利右衛門の親切 遭難寸前の遠洋航海 火縄銃で狙われる 難船の経験 海軍の必要 咸臨丸で太平洋を航海する 桜田門の変を知る 人斬り以蔵の早業 蛤御門などの事件 退職を仰せつけられる 軍艦奉行に任命 脱走兵の説諭 狙撃と落馬 長州との談判 戊辰の戦争 政権奉還の考え方 交渉相手をよく見る 辛抱強さ 

 古今の人物論 大人物の出現は百年後 水戸の烈公 横井小楠西郷南洲 西郷隆盛との面会 西郷の偉さ 西郷の大きさ 西郷との談判 西郷の礼儀正しさ 横井小楠 佐久間象山 藤田東湖 木戸孝允 島津斉彬公 小栗上野介 山岡と大久保一翁 大楽源太郎 二宮尊徳 鍋島閑叟侯 江戸太郎左衛門 高野長英 山内容堂公 岩倉具視公 山階宮 高島秋帆 向山黄村 岡本黄石 沢太郎左衛門 大迫貞清 徳川家達公 今北洪川 北条義時 足利義満 細川頼之 中江藤樹 熊沢蕃山 南光坊天海 沢庵和尚 柳生但馬守 宮本武蔵 北条早雲 荻生徂徠 王陽明 清の太祖 李鴻章 朴泳孝 丁汝昌 大院君 陸奥宗光 長州出身の人物 中尾捨吉 伊東巳代治 塚本定次 大東義徹 外山正一 青柳の婆 おれの一番の友達 感服した囚徒三人 時勢は人物を造る 

 政治家の秘訣 知行合一 内政の秘訣 徳川の政治 民政の行き届いた所 織田信長 武田信玄 北条早雲 

 天下の経済 人間万事金 借金政略を拒む 軍備拡張と金 日本の貨幣 経済はおれの得意だ 大奥の倹約に成功 家の始末 不景気と人気 江戸の衰微 諸大名の贋銀 古の英雄は経済に苦心 北条氏の患うるところは、天下の子民 豪族の力

 外交と海軍 外交の秘訣 外交の極意 海軍の制服 燈明台設置の苦心 今日外交の方針 外交は公平無私の眼 日本海軍の御傭教師 外国人との交際 彼を以て彼を制す 軍備縮小 兵庫海軍練習所のこと 台場を築く 海軍練習所の場所 譴責 幕府・諸藩の海軍 兵站部 

 時勢の変遷 旧旗本の静岡移住 個人の百年は国家の一年 至誠奉公の精神(剣光砲火の下をくぐって、死生の間に出入りして、心胆を練り上げた人は少ない。先輩の尻馬に乗って、そして先輩も及ばないほどの富貴栄華を極めて、独りで天狗になるとは恐れ入った次第だ。先輩が命がけで成就した仕事を譲り受けて、やれ伯爵だとか、侯爵だとかいうようなことでは、仕方がない) 政治と学問 難波田弾正の忠胆 人情世態に精通 尊王心と愛国心 予定の方針どおりにゆかず 行政改革は弱いものいじめ 幕府の地方自治 政事家と宗教 官府語 殖民論 気分の大きい支那人 朝鮮は日本のお師匠様 台湾の総督 藩閥の末路 世界の体勢と国家教育 ドングリの背くらべ 貧乏するほど空論が盛ん 開国の国是 隈板内閣の批評 猟官連はみっともない 青二才の吉之助め 地位相応に怜悧 時勢の変遷 今の薩長の奴等(天下の大勢を達観し、事局の大体を明察して、万事その機先を制するのが政治の本体だ) 支那は人民社会 真の国家問題

 江戸文学の批評 文字が大嫌い 本当に修行したのは剣術 坐禅と剣術 勝敗の念を度外に 白隠 西郷の居眠り ほととぎす 芭蕉の句 幸田露伴 尾崎紅葉 饗庭幸村 村上浪六 曲亭馬琴 山東京伝 柳亭種彦 東条琴台 十返舎一九 近松門左衛門 今の小説 古書を読む 歴史はむずかしい

 処世の要諦 匹夫匹婦の言 若い時の色欲と功名心 きせん院の教訓 人間長寿の法 精神の強さと根気 気合と呼吸 活学問の仕方 坐忘の必要 無用意 根気 事に応じ変に処す 餘裕のある人間 無我の境 人間の元気を減らす 平気で澄ましこむ餘裕 意気地なし みずから歎く 自省自修の工夫 無神経の強さ 仕事をあせるな 責任と仕事 市中の散歩 後進の青年を導く 乾分のない方がよい 知るや否や九泉の下 胆力のある人 武士的気風のくずれ 露西亜からの借款を謝絶 人の元気 裏棚社会 丸腰で刺客に応対 三河武士の美風 天下の人材 必ずこれと断定するな 気運の一転 人は一得をもつ 党を作るのは私 不平不足も世間進歩の一助 金の功罪 人に功を立てさせる気楽さ 大悪人、大奸物 潔癖と短期な日本人 大石良雄山中鹿之助 支那は大国 後進の書生に望む 天保の大飢饉のとき 無為にして閑寂 末路に処する 徳川慶喜公の参内 

 東京奠都三十年 江戸の歴史 太田道灌 東京奠都三十年祭 東京の繁昌は西郷と大久保の力 西郷の「諾」 東京今日の繁昌

 最後は、「要するに処世の秘訣は誠の一字だ。」で締めくくられている。

 

 勝海舟という人物は大きい。時代を見る眼、人を見る眼、国を見る眼、その中で政治的人間として結果責任だけを負う。無責任な外野のヤジには耳を貸さない。己を練り続けて、己がやるべきことを腹を据えて取り組み結果を淡々と出していく。時に手に取り、自らを省みるのに格好の教科書である。座右の一書にせねばならぬと思う。