歴史の逆流 時代の分水嶺を読み解く 長谷部恭男 杉田敦 加藤陽子

2022年12月30日第1刷発行

 

表紙「憲法学×政治学×歴史学から問う 大戦時と重なる日本政府のコロナ対応、核保有大国による独立国家への侵略戦争、戦前以来の首相経験者の殺害――『いま、この国は岐路に立たされている』」

表紙裏「歴史の歯車は逆転するのかー。転換期としての“いま”を検証する。大戦時と重なる日本政府のコロナ対応の「失敗」、核保有大国が起こした独立国家への侵略戦争、戦後初の首相経験者の殺害、そして政治と宗教との関係…… 戦前を想起させる出来事が続くなか、過去からどのような教訓をくみ取るべきか。憲法学・政治学歴史学の専門家が、暴力の時代に抗する術を考える。」

裏表紙「悪いことは何でも憲法9条のせいだと言う人がいる。9条があるから絶対にどこも攻めてこないということはないし、9条をなくせばどこも攻めてこないということもない。(長谷部) データに基づかずに希望的観測に基づいて政策決定する、あるいは人々に対して真摯な説明を行わない。国会を軽視し、閣議決定ばかりで物事を決めていく政治が続いている。(杉田) 失敗を繰り返さないためには、常に歴史を参照しながら考えていくことがとても重要です。今の時点からきちんと振り返ることで、初めて歴史が見えてくる。(加藤)」

 

目次

まえがき 杉田敦

第1章 説明しない政治

菅政権の危機対応/飲食店と営業の自由/「コロナ敗戦」「インパール2020」/データを使いこなせない国/説明責任を意識しない政府/安倍・菅政治の手法/「偶像崇拝」に陥る危うさ/東京オリンピックへの執着/改憲論者の〝陰謀〞/対応の遅れは9条のせい?/「ロックダウン」と「公共の福祉」/陥穽の「緊急事態条項」/地方分権の本質とは/強権と責任回避の間/為政者に欠落する学問体験

 

第2章 2割が動かす政治

中国の体制に近づく日本/「自己内対話」の意味/有権者20%で当選する制度/日本の最大政党「無党派」/戦前の二大政党制/東日本大震災とコロナ

 

第3章 戦争と侵略を考える

21世紀の国家による戦争/戦い抜けとか戦うなとか/ホッブズ型とルソー型の国家観/戦闘員と非戦闘員の区別/「油に始まり、油に終わった」/攻撃目標となる憲法原理/戦争とは、戦争状態とは/「殴りかかった人が悪い」/正義の論争/危機における国際社会の感度

 

第4章 国家の歴史観憲法

歴史観をめぐる争い/昭和天皇ファシズム/他国の土地を奪う国の末路/歴史に見るウクライナ/戦前と重なる手口/国連改革の可能性/緩衝地帯という概念/日中戦争との類似性/核共有の危うさ/敵基地攻撃と憲法9条憲法9条が問題なのか/台湾有事と武力干渉/日本の安全保障環境は危機なのか

 

何が世の中を動かすのか 長谷部恭男

 

第5章 歴代最長政権と宗教

安倍元首相の国葬をめぐって/安倍晋三山本五十六/拙速な決定の痛手/「民主主義の危機」なのか/疎外された個人と国家/政教分離と信教の自由

 

第6章 時代の分岐点

この国はどこに向かうのか/日本の選挙制度と集団/少数政党の乱立/小手先の政治改革/「対案を出せ」症候群/公文書管理と放送法/議論なき政治/憲法的大問題

 

巻末 「分断」の時代を乗り越える

菅元首相のスピーチと山県有朋国葬に見た「自衛隊の役割」/安倍政治的なものの総決算/旧統一教会をめぐる拙劣な答弁/多様性の否定と社会の分断

 

・長谷部 執着によって何が正しいことなのか見えなくなる。そうなれば正しく判断することも、正しく考えることもできない。幻想の中で物語が回っていく(シモーヌ・ヴェイユ)。

・長谷部 偶像崇拝禁止の意味は、自分を拝んだって何にもならない、そんな役に立たないことをするのはやめて、自分の頭を使ってどうしたら自分の願いが叶うか、どうしたら自分の問題が解決するか、自分できちんと考えろというもの。

・長谷部 おそらくロシアはホッブズウクライナがルソーと対応している。ロシアでは若い人たちを中心にどんどん国外に出ていっている。ウクライナは国家を守りたいのであれば国民の皆さんも一緒に戦ってくださいと言っている。

・長谷部 ルソーは『戦争法原理』で結局、攻撃目標になっているのは相手国の憲法原理だと言っている。戦争と戦争状態は区別され、戦争状態というのは実戦が無い状態で複数の国家が激しく対立している状態。

・長谷部 国連改革として、あなた自身が紛争当事者である以上、あなたに議決権はありませんというやり方は一つの手。

・長谷部 ヘーゲルは歴史は終着点へと向かって進んでいく理性の歩みだ、歩みを進めるとそれまでの既存の法や秩序、道徳は全部覆される、膨大な人命が犠牲になる戦争や革命が起こる、そうして歴史は前進していくと考えた。この思考法は右派としてナチズム(ファシズム)に、左派としてソ連共産主義)に受け継がれる。これに対してカントは人も国家もそれぞれ何が正しいか正義か正しい国家秩序かは国や人によって違う、だから現状を力づくで変更しようとするのはやめよう。すべての当事者が国内では一つの客観的法秩序を尊重しなければ、国際社会では多数の共和国からなる秩序あるバランスを尊重しなければ平和な社会生活はありえない。結局、現在のロシアと西側諸国との対立はヘーゲルと間との対立。

・長谷部 9条は「決闘としての戦争の放棄」であり、自衛力の保持は排除していない。

・長谷部 国政に関わる重要事項であれば国家による審議と決定を必要とする重要事項法理によれば国葬が重要事項である以上閣議決定では足りず国会の審議と議決が必要である。

・長谷部 憲法を改正するなら50条の国会議員の不逮捕特権を廃止すべき。身を切る改革にもなる。

・杉田 政治活動に宗教が絡むこと自体、間違っているといった批判はおかしいことになるが、宗教への偏見や忌避意識があるためにそういう議論に傾きやすい。

・長谷部 カルト集団についてはフランスの2001年の規制立法が引き合いに出されることがあるが、新興宗教全般に厳しい態度を取っている点も背景として考慮する必要があり、慌てて飛びつかない方がよい。

・加藤 菅さんが友人代表としてスピーチした中で、安倍さんが読んでいたという岡義武の『山縣有朋』を手に取り、ページの端が折られていることなどを自分で確認したこと。でも伊藤博文が亡くなったところを引いたことにガクッときた。山県が真の盟友と見定めていたのは西郷隆盛であり伊藤はどうでもいい、官邸のスピーチライターのレベル、安倍さんを支えてきた人たちの地金が図らずも露呈したように思う。