人生の短さについて セネカ 中澤務・訳

2017年3月20日初版第1刷発行

 

裏表紙「人生は浪費すれば短いが、過ごし方しだいで長くなると説く表題作。逆境にある息子の不運を嘆き悲しむ母親を、みずからなぐさめ励ます『母ヘルウィアへのなぐさめ』。仕事や友人、財産とのつき合い方をアドヴァイスする『心の安定について』。古代ローマの哲学者セネカが贈る“人生の処方箋”。」

 

巻末の訳者解説によると、ゼノンに始まるストア派の第2のピークに、セネカエピクテトスマルクス・アウレリウスらが輩出。セネカはネロの教育に携わり皇帝就任後は補佐役として支えたが、謀反の疑いをかけられ自ら命を絶つ。ストア派は、人間はみな魂の中にロゴスを宿し、そのロゴスに正しく従うことが正しい生き方だと考えていた。「ストイック(ストア的)」の語源でもある。セネカは、「人生の短さについて」で、英知を求め、英知に従って生きることこそが最も有効な時間の使い方となる、未来に頼ることをせず過去ときちんと向き合ってその上で現在という時間に集中して生きることで時間は豊かな人間的時間となる、という。「母ヘルウィアへのなぐさめ」ではセネカの深い人間性を垣間見せてくれる作品であり、「心の安定について」では賢者になり切れない人間の弱さに配慮した、より現実的なアドヴァイスが示されており、ストア派の哲学のもう一つの側面を見せてくれている、とある。

 

・われわれは、短い人生を授かったのではない。われわれが、人生を短くしているのだ。

・次のような人たちこそ、自分の本当のつとめを果たしていると考えるべきだ。すなわち、ゼノン、ピュタゴラスデモクリトスをはじめとする学問の神官たちや、アリストテレスやテオフラストスを、毎日つき合う親友にしたいと望む人たちである。

・食欲や性欲にふける連中のふるまいは、唾棄すべき恥辱でしかないのだ。

・どれだけ長い間、ご機嫌とりをされているか・・どれだけ長い間、宴会をしているか―いまや、宴会に出ることが仕事になってしまっているではないか。

 

ルソーの「今を大切にせよ」との声と重なるのかもしれない。

 

 

「母ヘルウィアへのなぐさめ」

・たえざる不幸は、ひとつの恩恵を与えてくれます。―たえず苦しめ続けることによって、ついにはその人を強靭な存在にしてくれるのです。

・理性は、悪徳をひとつひとつ打ち倒していくのではない。すべてを一緒に打ち倒すのであある。ただ一度の全面的勝利あるのみなのだ。

・わたしは、運命から逃れようとするすべての人が逃げ込むべき場所に、あなたをご案内しましょう。すなわち学問です。学問は、あなたの傷を癒し、あなたの悲しみを、すべて取り去ってくれることでしょう。

 

 

「心の安定について」

・われわれはみな、運命の鎖に縛られている。…だからこそ、自分の境遇に慣れなさい。出来るだけ、自分の境遇に不平をもらさないようにしなさい。

・精神は、いつもの走路から外れ、全力で疾走しなければならない。しっかりとくつわをかみ締め、御者を駆り立て、自分の恐れていた高みへと上昇していくべきなのだ。

 

まったく矛盾しているような気もするが、どちらも大事なような気もする。