2016年12月10日発行
梅薫る
娘の志津は保科節蔵に嫁いだ身であるのに、またも実家に戻ってきたため、父の奥津兵左衛門はまたかと思った。妻の波江は志津が身籠っているという。度々実家に戻っては相手に申し訳ない。もともと志津は江口欽之助に嫁ぐはずだったが、志津に理由が告げられず取りやめになった。志津は今度も10日ばかり実家にいると聞いた父兵左衛門は江口が断った理由と保科に嫁がせた理由を聞かせた。江口は深夜の稽古で師の巻村と対峙した時にどちらかが足を滑らせ運悪く巻村の木剣が江口の股間を貫き男性の機能を失った。熟慮の末に江口は保科に添わせてやって欲しいと言った。2人は剣友だった。これを聞いて志津は保科にすぐに帰って行った。
孫十の逆襲
関ヶ原の大戦後、孫十が村の世話役の仙右衛門に呼ばれた。野伏せりが現れて隣の村が襲われたという。この村で戦の経験があるのは孫十だけなので、孫十を頼りにした。しかし孫十は戦さで逃げ惑うだけで戦さの経験がある訳ではなかった。それでも弓矢を集め作戦を立て、槍を持って敵の大将の権左に対峙して平作と一緒に権左を討ち取った。村人たちは野伏せりたちを追い詰めていった。
泣くな、けい
相良波十郎は、酒の勢いもあって奉公に来ていたけいを無理矢理に手籠めにしてしまう。妻の麻乃が病に倒れている時のことで波次郎は後悔した。麻乃はしばらくして死んだ。しばらくして藩の蔵にあった短刀が見あたらない。波十郎は研ぎに出し、返却を妻の麻乃に任せていたが、どうやら麻乃が返していなかった。けいは麻乃が剣を持って出掛け、持ち帰らなかったこと、その相手が中津清之進であることを波十郎に教えた。中津に聞き出すと田原屋に売りとばし、現在は隣国赤羽藩の神保七兵衛が所持していることが判明した。謹慎処分を受ける波十郎が自分で七兵衛と掛け合うことができないため、けいを使者として遣わした。けいはなかなか戻ってこなかった。波十郎が半ば諦めかけた時にけいは短刀を持ち帰った。七兵衛は短刀を持って江戸に行ったため、けいも後を追っていた。波十郎はけいを後妻に迎い入れようと思う。
暗い鏡
鏡職人の政五郎を姪のおきみが訪ねてきた。おきみは木綿問屋で住み込みで働いていた。そのおきみが殺された。実は木綿問屋で働いているというのは嘘だった。おきみは家で客をとる娼婦で、客と金のことで揉めて殺されてしまう。今までおきみのことを放置していたのを後悔した。政五郎はおきみが最初に奉公に出た店やその次に奉公に出た店でおきみのことを訪ねると、おきみと一緒に働いていたおしんから、おきみが男に騙されて絞り取られていたと聞く。男の居場所を突き止め政五郎は男を殴り飛ばした。男は足を洗って商売でも始めるかと話をしていた矢先に殺されてしまったと言う。嘘だと思ったが、この男の言うことを信じてやりたい気持ちが動いた。政五郎はこの男が言ったことが本当だったら、おきみはよけいなことをしてくれたと怒っているかも知れないと思った時、初めて死んだ姪と心が通じた気がして微笑した。