「明治」という国家[上] 司馬遼太郎

1994年1月30日第1刷発行 2007年2月25日第36刷発行

 

幕末の小栗忠順(ただまさ)を西郷隆盛とともに「明治の父」の一人として取り上げている。勘定奉行兼海軍奉行という要職に付き、将来の日本を見据えていた点で勝海舟と相通じる。小栗は日本も軍艦を持たなければならないと考え、横須賀に巨大な海軍基地(造船所)を造るため金策に四苦八苦する。彼はこれが幕府滅後も日本の礎になると予測しており、明治以降、横須賀は彼が描いた通りに日本を引っ張る原動力になった。小倉は慶喜主戦論が採用されないと江戸を去り彼の知行地(群馬・権田村)に引きこもるが、新政府は小栗を恐れて打ち首にした。

長州が石高を三分の1以下にされた徳川への恨みが底流に2百数十年流れ続いたことと武士の多くが農民になったことで無階級軍隊を作る下地があったればこそ長州藩は一藩だけで外国相手に戦争したり幕府に2度にわたり攻められたりした。あのままで行けば潰れていた長州を救ったのが政略のうまい薩摩藩だった。土佐に群がり出た自由民権家は、もともと長曾我部の遺臣意識が残る中で、よそ者の山内家が土佐に入り込んだことで2つの民族が共存し、他藩なら考えないような農民間の差別意識から、土佐の土地は山内家のものでなく天朝のものであるとの意識が芽生えたことに遠因がある。作曲家滝廉太郎「荒城の月」は廃藩置県前後の鎮魂の歌とみていいかもしれない。佐賀出身の副島種臣は漢学の造詣が深く孔子と語りあって少しの違和感がないのは副島くらいだと福本日南が言うほど政治家にして真の教養人だった。欧米の法制や経済、事情に通じている第一人者でもあった。マリア・ルス号事件で副島の果たした意義・役割には大きいものがある。日本が人道主義を貫いた行為が国際社会の中で認められた瞬間だった。

イルジメ〔一枝梅〕その1 2008年(全20話) 監督イ・ヨンソク

#1 忍び寄る影

1人で屋敷に侵入し足音一つさせずに屋根を伝い、部屋に忍び込んで宝物を手にし、追手が取り囲んでも一瞬の暗闇の隙に他人と入れ替わって逃亡を成功させたイルジメ。時は13年前に遡り、王の功臣イ・ウォノが息子ギョムと漢陽(ソウル)を連れて旅行中、泥棒の濡れ衣を着せられた少年チャドルの窮地を救ったギョム。罪を着せようとしたのは王の佞臣シクの長男シワンで、ギョムがシワンがチャドルに罪を被せようとしても反省しない態度に腹を立てて殴り付けた。現場に駆けつけたチャドルの母はウォノを見て浮かない顔に。チャドルとウォノはかつて恋人だったからだ。ウォノはチャドルの顔を見てチャドルに高貴な人になれと言う。チャドルの父セドルは息子が回りから父はコソ泥だといじめられるのを知ってやめると改心した。しかし仕事につけず焦るセドルに高額報酬を約束された仕事が舞い込んだ。セドルはウォノを罠に嵌める仕事と知らずに一旦は引き受けてしまう。しかしウォノの家の敷地に埋めるよう指示された紙に血の署名があるのに気づき、セドルは引き返して金を返し仕事を降りるというと、囚われの身に。セドルの後をつけたチャドルはセドルが囚われているのを知り、父セドルに代わってウォノの家に紙を埋めた。シクは2人を殺そうとすると、チャドルの母タンが現れ、大監シクに向かって、チャドルはシクの息子だと言って息子を救った。実はタンはウォノの子を身籠り、ウォノの家臣だったシクがタンを側室にしたいと言っていたので、体を捧げたことがあった。タンはチャドルにシクの子として両班として今後は生きていくために自分に声を掛けてもいけないと教え諭し、チャドルは“シフ”に名を変え、父セドルは涙にぬれてチャドルと別れた。ギョムは家に忍び込んだ者がいると聞き、ウォノに家族を守るため剣術を習いたいと言い、ウォノから剣を習った。王の意向で動く謎の男は前王の方針を引き継がずに王への謀叛を企てている一味を撃ち滅す計画を立て、その罪をウォノに着せようとし、ウォノに暗殺団を送った。

 

#2 引き裂かれた家族

セドルはチャドルが埋めた紙を取り返すためにウォノの屋敷に忍び込むが、戸棚の鍵穴からウォノが眼の前で斬殺されるのを見て救いを求めていたギョムの声に気付いて戸棚ごと持ち帰る。中にはギョムがいた。ウォノの屋敷に埋められた血判状が発見され、ウォノは謀叛に失敗して自害したと扱われて謀叛の首謀者に祭り上げられた。ウォノへ復讐するためタンはギョムを役所に突き出そうとするが、チャドルの弟だからとセドルから諭されて諦める。時は10年前に戻る。セドルは頼まれてウォノの屋敷からタンを誘拐するが、頼まれた人物にタンを引き渡すと、殺されそうになったので自分で引き取る。タンは身籠っていた。セドルは、誘拐の途中、ウォノに会い、金を渡されて幸せにしてやってくれと頼まれ、誰にも言えない秘密を抱えた。再び現在に戻り、首謀者の屋敷から証拠の血判状が出て来たため、セドルはチャドルが実の父ウォノを死に追いやったと知る。死体になってもウォノは八つ裂きの刑に付されるのを目撃し、謀叛人の妻とされた母を目の前にしてもギョムは息子と知られないために石を母に投げ付け、深い悲しみで心を痛めたギョムは過去の記憶を全て失った。セドルはギョムの名を“ヨン”と変えてわが子として育てる。13年後、成長したヨンはある時、学堂の同級生にいじめられ山中に放置され気を失ったところを漁師チャンに救われた。うわごとでギョムと名乗りながら、意識を取り戻すと名をヨンと名乗った。セドルは学堂に通わず遊び惚けていた。ある時、ヨンは2人の詐欺師に騙されて金を巻き上げられるが、この2人はかつてギョムと間違えられて殺された男の妹と殺しを実行した犯人だった。

 

#3 再び現る刺客

ヨンは学堂の仲間に半殺しの目に遭い、猪を捕まえる穴に突き落とされた。やっとのことで這い出たヨンだったが、今度は別の男に氷の張る湖に突き落とされ死にかける。そこにまた別の男が現れて辛うじて助かる。遅くまで帰って来ないヨンを探し回るセドルはヨンの失踪にシワンが関わっていたことを突き止めた。シクの末っ子ウンチェ(ハン・ヒョジュ)は人を思いやることのできる美しい女性に成長していた。チャドルがシフと名を変えて父シクの下で兄シワンから酷いいじめに耐えながら、いつも幼い妹ウンチェはシフを助けてきた。セドルは猪の穴にヨンがいないと知って、シワンに殴る蹴るの暴行を働く。そこに兄シワンを探せと命じられたシフが現れてセドルを叩きのめすが、途中でシフがチャドルだと気付いたセドルは仲間がシフに石を投げようとするのを止める。ヨンを救った男はギウォンと名乗り、ウォノの友人としてウォノの無念の死について話をしたいと理由を伝えて、ヨンにギョムかと尋ねるが、違うと答えて解放される。チャンがヨンをギョムだとしてギウォンの下に連れて行ったが、逆にチャンが嘘つき呼ばわりされることになる。シワンに暴行を振ったとしてセドルが捕まり手首を切られる刑に処されることになると、ヨンはセドルを救うためにシワンに赦しを請う。シワンはヨンに金を作れと言い、格闘賭博を紹介して参加させ、金を手にした上、優勝賞金200両を持ってきたら父セドルを赦してやるという。一方、シフがセドルが育ての親だと兄シワンに教えると、シワンはセドルを救いたければ優勝して賞金200両を持ってこいという。

 

#4 記憶のかけら

格闘賭博で優勝候補に当たったヨンは相手が試合の最中に下痢を起こして勝利を得たが、そこにシフが現れ、ヨンとシフが対決することに。シフに一方的にやられるヨンだったが、そこにタンが現れ、二人のわが子が互いに殴り合う姿を見て絶叫する。どこまでも殴られても倒れないヨンが父セドルの手首が斬られるというのを聞いて、シフは自ら白旗をあげてヨンを勝たせる。優勝賞金を手にしたヨンだが。ヨンをギョムだと疑う暗殺団に命を狙われ、賞金を落としてしまう。ウンチェにシフの気持ちも考えてあげて欲しいと言われたシクは手首を切る代わりに前歯をシワンに抜かせるだけで済ませた。シクはウンチェに豪華な旅館を建てるよう指示していたところ、ウンチェは物乞いに仕事を与えていた。シクがそれを知って追い払おうとするとそこにウンチェが現れ破顔する。シクは娘ウンチェには弱い。ヨンは殴られて頭に衝撃を受けたためか過去の断片的な記憶が蘇りつつあった。ヨンはギウォンの前に現れ、自分は誰なのか尋ね、ウォノの息子ギョムで、ウォノは謀叛の罪をなすりつけられたことを教えられた。ギウォンも謀叛の咎で捕まるのを見たヨンは父ウォンが殺される場面を思い出した。

 

#5 葬られた過去

シム・ギウォンの甥クォン・ドゥヒョンは翌日王の前で全容を明かすと述べていたが、前日に密室の中で舌を噛んで死んでいた。荷物を渡すためにシクに会いに行ったシフが、ドゥヒョンの死体に傷あとを見ると、密室の中で誰かがドゥヒョンの胸に鈎をひっかけて手繰り寄せて舌を噛み切らせて自殺に見せかけた可能性を口にし、床に引きずられた跡が残っていることと整合する推理を述べたが、シクは余計な口出しを封じた。同じ頃、ウォノの冤罪を晴らす重要な証拠書類を保管した倉庫が何者かに火をつけられて灰になった。ヨンは証拠書類を盗もうと屋敷に入り込んだが、全て白紙なのを見たところで燃えた柱が倒れ、同時に不審者と見做されて逃げ回っている時に、ちょうどドゥヒョンが殺されている現場を見てしまっていた。またギウォンも謀叛の罪を被せられて殺されていた。ドゥヒョンは死ぬ間際にダイイングメッセージをギョムに残したが、ギョムは半分しか手に入れられなかった。シフが体の傷に気付いたことをシクがサチョンに伝えると、サチョンは何か証拠を残したのではないかと疑い、ドゥヒョンの衣服と死体を調べ始めたが、死体は何者かに奪われ、衣服の一部が破り取られていたことを見つけた。

 

#6 告発

ダイイングメッセージを持つ男の命を狙っていたサンチョンの手下ムイの行く手に、偶然シフが妹ウンチェを迎えに行く道中で鉢合わせとなり、ムイに傷を負わされた。格闘賭博での傷に加えて更に傷を負ったシフは弓手を左手に変えて猛練習に取り組み科挙を受ける準備をした。ウンチェは旅館建設のために毎晩遅く自宅に帰るが、シフはウンチェが襲われないよう影で動いた。格闘賭博の頭ヒボンはヨンに頼まれてヨンの姉ヨニを探していた。ヒボンはチャンからシフに姉がいると聞いて金にするつもりだったが、ヨニの美しさと清い生き方に惚れ、ヒボンはヨンの兄貴だと告げ、姉ヨニが生きていることをヨンに教えて引き合わそうとした。科挙の試験が始まり、シフは弓矢で好成績を収めて次の流鏑馬に挑戦するが、シワンの妨害に遭い失敗する。ヨンはセドルとタンの気持ちを尻目に姉探しに奔走する。

 

#7 目の前の姉に

ヨニが捕まり、弟ギョムの居場所を吐かせるため拷問されるが口を割らない。ヨンは春画売りの現場を押さえられ逮捕され、ヨニと同じ場所で身柄を拘束される。頭書は互いに気づかなかったが、ヨニはギョムが漢陽でヨンの名前で生きていると聞いたのを思い出し、ヨンのことをギョムだと気付く。釈放後にヨンは同じ牢屋にいた官婢が姉のヨニだと知って驚く。ヨニを餌にギョムをおびき出そうとしていた。ヨンは姉ヨニを救うために手を尽くしたが上手く行かず、結局、ヨニは公開処刑の場に身を晒すことになる。ヨンはその場にいながら涙をこらえて弟であることを名乗り出ることができず、このためヨニは絞首刑となった。ヨンは胸に刺青を掘り復讐を誓うとともに、母探しは断念した。科挙試験にシワンが賄賂の力で首席合格しシフも合格した。シフを小ばかにするシワンの態度に堪忍袋の緒が切れたシフはシワンを上回って見せると宣言する。しかしシフの所属はシワンが上司を務める義禁府だった。同じ頃、シフは科挙の試験の為の書籍を捨てようとし、執事がシフの母タンに書籍を預け、併せてタンはギョムの姉ヨニをチャドルが告発したためにヨニが死んだことを聞き、自分の子チャドルを手放したことを深く後悔する。ヨンは盗賊を捕らえる捕卒になることを目指すとセドルに宣言する。

 

#8 イルジメ誕生!

ヨンは捕卒になるからと理由を偽って、セドルから塀を乗り越え降りる技を教わり、聴力を鍛える訓練を受け、足音を消す歩き方を学び、開錠技術習得のため手の感覚を鍛え、官吏の屋敷に忍び込み、父を斬った見覚えのある文様のある剣を探した。ある晩、戸曹判書の屋敷から盗み出したものは絵画だったので捨てた。それを偶然デシクが見つけて拾った。実はこの絵は陳画伯の描いた陶淵明画で50万両もする高価なものだった。前科者が一斉に調べられセドルが引っ立てられたほか、盗まれた絵を部屋に飾っていたデシクも連行され拷問された。ヨンは思いも寄らぬ方法で宮殿に入り込み、王への直訴に成功して再捜査を王から約束してもらうことに成功するが、再捜査の結果でもデシクが犯人であることが覆らなかった。デシクの処刑の当日、再び戸曹判書の屋敷に盗みが入り真犯人が別にいることが判明してデシクは釈放される。戸曹判書が集めた数々の貴重品を運んだ牛車も何者化に奪われた。ウォノの屋敷の改築を済ませたウンチェが紅梅の木に登ると、塀の上で寝ていたヨンを見かけ、ヨンが目を覚ますとウンチェが驚いて木から落ちそうになる。

 

#9 初恋の少年

梅の木から落ちそうになったウンチェを助けたヨンは、ウグイスと梅にまつわる話をした。かつてウンチェが幼いギョムから聞き損ねた話だった。ヨンが牛車で運ばれた戸曹判書の隠し財産を瞬間業で奪うことに成功するが、その手口をシフは現地を隈なく調べて発見する。犯人の似顔絵が街中に貼られ、紙には黒玉を返せと書かれていた。黒玉は黒真珠のことだった。似顔絵を頼りに街中で犯人捜しが行われ、ヨンが追手から追われて逃げると、偶然ウンチェが若い役人に絡まれていたので彼女を助けるが、すぐに殴る蹴るの暴行を振われた。そこにシフが現れてヨンを窃盗容疑の犯人だから引き渡せと要求し、役人からヨンを解放させ、似顔絵と比較すると別人だと分かり、ようやくヨンは無罪放免となる。ウンチェは血まみれのヨンに手ぬぐいを渡す。ヒボンがセドルの始めた錠前屋に場所代を払えと難癖をつけると、見廻りにやってきたシフがヒボンを追い払う。ところがヒボンはシフがギョムの姉ヨニを告発した男だと覚えていた。そのことを聞いたヨンはシフを追い掛けようとするのをヒボンが必死に止める。シワンは賭博で負けが込んでいたがそれをヨンが救う。ヒボンと付き合っていることをしったタンは指を差し出すからヨンを返してくれと頼み込む。シワンはお礼にヨンに食事を招待するが、その料理を出したのはギョムの母ハンだった。ヒボンはヨンを預かっているがゴロツキにはしないとセドルとタンに約束する。

 

#10 昼の顔・夜の顔

かつて出会った少年の帯飾りの持ち主を探し続けていたポンスンだったが、それがヨンの持ち物だと知り、かつて兄を失った時に自分を支えてくれたのがヨンかも知れないと思う。ヨンは豚の皮を顔に貼り付けて顔を変えて天友会の歓送会に潜り込み、黄金のカエルを盗み出しに成功すすが、天友会はかつて父の友人らの集まりで会ったことを思い出し、父を裏切ったのは会の誰かに違いないと思い至る。ウォノの命日を迎えるとタンは今も法事を行う。それをセドルは切ない目で見つめる。新築の旅館付近の物乞い達を追い払うようシクから命じられたヒボンはヨンを連れて子供を棒で殴るよう命じた。ヨンを組から抜けさせるためだった。ヨンは子を殴るふりをして自分の足を殴り、それを見ていたポンスンはヨンの足を治療する。ウンチェも見ていたが、ヨンが子を殴っていると勘違いしてしまう。シワンに連れられシクの屋敷に行ったヨンはそこで天友会の名簿を探し出すと、父の名が「謀反を図り自決」と書かれているのを知る。シワンはヨンをすっかり信頼してウンチェが役人たちの裏帳簿を管理していることを教える。物乞いに食事を与えて家に連れ返されるウンチェをヨンはイルジメの姿で攫い、暗闇の中でその姿を見せる。

 

永野重雄(富士製鉄社長) 経済人12

昭和55年11月4日1版1刷 昭和58年11月18日1版7刷

 

①裁判官を父に中国地方を転々として育つ

②けんかに明けけんかに暮れた少年時代

③六高入学―勉強より柔道一筋の猛練習

④ウィーン警視庁で53歳の“真剣勝負”

⑤大学時代―試験準備で料亭に泊り込み

⑥浅野から富士へ―会社再建に粉骨砕身

⑦「日鉄合同」で九州・八幡製作所に転任

⑧北海道で終戦―経済安定本部の次官に

⑨日鉄解体―広畑製鋼所の確保に全力

⑩生まれ変わった富士製鉄の社長に就任

⑪“太平洋経済委”通じ民間経済外交を促進

⑫独断で対印融資決定―日印協力の礎に

⑬八幡・富士合併で軽罪体質改善の口火に

 

・明治33年松江生まれ。父は裁判官。小6の時、父が亡くなる。弟が父の果たせなかった責任を継いで弘願寺の住職となった。中学卒業後、岡山第六高等学校へ入学。東大法学部に入っても柔道は続けた。卒業後、浅野物産に入社したが、1年足らずで富士製鋼に移る。富士製鋼の社長を19年したが資金繰りについては身の縮む思いをした。富士製鋼は日本製鉄に合併され、日鉄の富士製鋼所の所長になったが八幡に来いと言われ八幡に行くことにした。東京の日鉄本社に転勤になると、鉄鋼業界に統制会が設けられ日鉄を退社して統制会に移り原料を担当した。公平に原料を配分することで生産性を向上するのは経済的かつ合理的だった。原料統制会社の社長に就任した後、北海道、東北、九州の三支部に独立したため北海道支部長に任命され北海道へ渡った。戦後北海道で百姓をやるつもりだったが日鉄社長の渡辺義介さんから呼び戻され東京に戻った。営業担当の常務になり、経済同友会を設立した。経済安定本部に来るよう請われたが何度も断った。が断り切れずに昭和22年から役人生活を始めることになった。安本を1年でやめ日鉄に戻ったがGHQから分離を求められ八幡と北日本に別れ、北日本が今日の富士製鉄となった。東海製鉄を立ち上げ名古屋製鉄所に高炉二基を持った。八幡と富士の合併は昭和44年に実現できるよう進めている。これが実現できれば交錯輸送が解消され年間数十億円の輸送費が軽減できる。世界一国論。遠からず世界が一つになる日が来る。これが世界にもたらす永遠の平和への道ではないか。(昭和45年富士、八幡両社が合併してできた新日鉄の会長に就任。48年同取締役相談役。44年より日商会頭)

王陽明 知識偏重を拒絶した人生と学問 安岡正篤

2006年1月25日第1版第1刷

 

裏表紙「著者には、東京帝国大学の卒業記念として出版された『王陽明研究』と、「王陽明伝―王陽明の生涯と教学」(王陽明生誕五百年記念『陽明学大系 第一巻』所載、昭和46年)の名著がある。本書は、この名著を下敷きに、「分りやすく」と「平明に」を念頭に、王陽明陽明学について説いた講話集である。難解と言われる陽明学の入門書にして、本シリーズの掉尾を飾るに相応しい、師の「陽明学第三の名著」である。」

 

目次

文庫版のまえがき

第1章 生誕の秘話と青年時代

陽明研究で結ばれた縁尋の機妙

陽明学」の流行と誤解

王陽明生誕の秘話

第2章 「五溺」と発病求道

就官と発病「独の生活」

「従吾の学」への徹悟

波乱万丈の生涯の始まり

第3章 「竜場徹悟」と教学の日々

険所・竜場に流されて

竜場流謫の意義

道友・湛甘泉との訂交

第4章 最後の軍旅と長逝

寧王の叛乱と平定

「事上磨錬」と小人の奸計

「到良知」への確信

 

・縁尋の機妙

 自分が真剣にやっておれば、必ず求めるものは見つかる。

朱子学陽明学も師との出会いは同じようなものであり、軽々しく朱王の学の相違を論ずるなどは慎むべきである。婁一斎先生と王青年との出会いを想うとき、自然に李延平と朱青年とのことを連想・想起せんというのでは勉強が足りない。

・『伝習録』の「一掴一掌血(いっかくいちしょうけつ)、一棒一条痕(いちぼういちじょうこん)なれ」。一度掴んだらそのものに血の手形が着くぐらいに掴め、一本ピシリッと打ち込んだら、一生傷痕が残るほど打ち込め、というのが王陽明の覚悟だった。

・陽明先生は、宸濠の叛乱や張忠・許泰らの深刻きわまる迫害の事上磨錬を経て「到良知」の説を提唱する確信、不動の境地に達した(50歳)。「良知の二字は・・滴骨血てっこっけつなり」(弟子に答えた言葉)。

陽明学即反逆的危険思想とする俗伝が未だに行なわれているが、笑止である。大塩平八郎は、天保の大飢饉に民が餓死した非常の危機に身を挺して救済に肝胆砕いた彼を憎悪して愚劣きわまる妨害の限りを尽くした奉行・跡部山城守良弼に堪忍袋の緒を切って民衆に訴えて奉行誅戮に蹶起したのであり、元来は野心のない廉直の士であった。これをもって危険行動原理と考えるのは問題とするに足りない。

太陽は動かない 2021年 監督:羽住英一郎

原作吉田修一。機密情報を高値で売り買いする「AN通信」。通信員たちの心臓には24時間、本部と連絡が取れなければ情報漏洩を防ぐため爆破するカプセルが埋め込まれている。冒頭から24時間ルールを守れない通信員山下の胸にランプが灯り、必死に連絡を取ろうとするも間に合わず爆死する映像からスタートする。山下は香港にいた中国のエネルギー企業・CNOXのアンディ・黄(ウォン)を追っていた。山下がなぜ監禁されたのか、どんな情報を掴んだのかを探るのが鷹野一彦とその相棒・田岡亮一の今回の任務だった。ある時、アンディが参加したパーティーに鷹野や田岡の他、韓国人諜報員デイビッド・キムが参加していたが、アンディの側には日本語を話せるAYAKO(ハン・ヒョジュ)もいた。AYAKOは鷹野にAN通信の正体やアンディに近づき過ぎると消されると警告を発した。アンディは太陽光エネルギーの実用化に向け、日本の大手電機メーカーMETと提携していたが、真の狙いはMETの持つ蓄電池技術だった。アンディは宇宙で集めた太陽光をマイクロ波に変換して地上に送り、それを電流に変換するレクテナ基地を中国に建設していた。鷹野は山下がMETの役員の河上満太郎に接触していたことやレクテナ技術を持つ日本の教授がソフィア大学にいたために山下がソフィアにいたことを突き止めた。鷹野は河上に会い、彼も息子を誘拐された過去を持ち、山下から胸にチップを埋められたことを聞いていた。AN通信は親から虐待を受けた子どもを産業スパイとして育て上げ、鷹野のその一人だった。レクテナ基地に向かう鷹野と田岡が乗るヘリが打ち落とされて鷹野が捕まり、残り5分を切ったところで胸のランプが点滅し始める。そこに田岡が現れ鷹野を救出。一方、キムはソフィア大学の教授の娘を通じて教授に近づくのに成功すると、AYAKOはイスラームのターバン姿でキムに近づきインドで新原料を手にした。更に着物姿でAYAKOは田岡に接触した後、キムと一緒に、アンディに映像を送って、新原料を中国でなく高値で買うロシアに売ると告げる。モスクワに向かう教授とキムの足を止めるため、アンディは教授の娘を誘拐し、教授の乗る列車に実行部隊を差し向けた。鷹野と田岡は教授を救出すべく列車に同乗するが、車内でガスが散布され、キムも眠らされて教授は実行部隊に連れ去されて娘と一緒に船の中に監禁された。船には田岡が潜入していたが、教授の救出に失敗する。キムからアンディの計画を聞かされた中国当局はアンディと手を切ることにし、アンディは教授親子を船もろとも沈めることにした。その船に鷹野が乗り込み、教授親子を救出するが、田岡の鎖だけが外れない。諦める田岡だったが、決して諦めない鷹野は何とか田岡を救出する。海上に出た二人の上空にキムが乗るヘリコプターが現れ、中にはAYAKOもいた。キムは鷹野に依頼主から託された伝言を鷹野に伝えた。川上は蓄電池技術を広く世界に供給したいとパーティーの席上で発言すると、同時中継でAYAKOはインドの若き研究者を招き、METと提携する映像が流れた。アンディは中国政府に逮捕され、キムは依頼主から新しい仕事を依頼されていた。

今回の勝者は果たして誰なのか?それは視聴者が決めてねといわんばかりのエンディングだった。今回のハン・ヒョジュはヒール役ですかね。様々な衣装を着こなし、英語や韓国語や日本語を操り、男を翻弄させていく、そんな新たな一面を切り拓く作品でした。キムの依頼主は、高校時代の鷹野の唯一の親友で突然いなくなった柳だという種明かしが最後にされるのだが、柳は一体何の仕事をしているのか?終わり方がミステリアス。高校時代に島に転校してきた女子高生も鷹野が突然姿を消したのを最後に会っていなかったはずだが、最後に空港で突然鷹野とすれ違い、鷹野君?と独り言を呟く映像がエンディングの後に少しだけ流れた。

 

濱田庄司(陶芸家) 私の履歴書 文化人7

昭和59年1月10日1版1刷

 

①川崎生まれ

②溝ノ口小学校

日露戦争

④父母の元へ

⑤三田のころ

⑥中学時代

⑦陶芸を志す

⑧銀座「三笠」

⑨東京高等工業

⑩絵の勉強続ける

⑪学校の授業

⑫陶磁器試験場

⑬研究に励む

⑭リーチのこと

⑮英国に渡る

⑯作陶生活

⑰英国の暮らし

⑱初の個展

⑲帰国

民芸運動

㉑結婚

㉒益子生活

㉓家を持つ

㉔絵付け

㉕大原さん

㉖欧州旅行

㉗すぐれた伝統

 

明治27年12月9日母の実家川崎で生まれる。家は東京・芝明舟町。絵を描くのが好きだったが、中学3年になると生活に役立つ工芸の道に進もうと心に決めた。蔵前の東京高等工業高校(窯業科)に無事合格した。目的の板谷南山先生に習うことができるようになり、弟子入りは断られたら友達として付き合うのを許された。卒業後、河井寛次郎が働いている京都の陶磁器試験場で勤務した。リーチが帰国する際に誘われて同道した。英国に渡って3年目にロンドンのギャラリーで個展を開いた。日本で大震災が起き4年ぶりに帰国した。民芸という言葉は、柳宗悦河井寛次郎と私の三人が伊勢へ旅した道中で生れた。結婚後、栃木県益子に移った。米国の評論家ヘンリー・バーゲンがエッセーで「日本のやきものは、徳川初期に仁清、長次郎、光悦、乾山らが出て大きく花開き、頴川、木米がそれを継いだが、その後はよき電灯を残しつつも長く停滞していた。それが今になって、リーチ、富本、河井、浜田らの家継ぎではない個人作家が生まれた。一段と花を咲かせるに至っている。世界の美術史の通念に従えば、日本のやきものも古いもののみ残るところが、奇跡的といってもいいほど盛り返している」と書いた。(昭和53年1月5日死去)

 

MIRACLEデビクロくんの恋と魔法 2014年 監督:犬童一心

ハン・ヒョジュの日本語が無茶苦茶上手になっています。2016年の「愛を歌う花」では、ソユル役を演じたハン・ヒョジュの日本語が片言だったのは、日本軍幹部の愛人に身をおとしたソユルの役柄上、上手な日本語では情感がうまく出せなかったからなんでしょうね。

さて、本作は相葉雅紀演じる売れない漫画家の光が、街角で偶然ぶつかったハン・ヒョジュ演じるソヨンに一目惚れし、榮倉奈々演じる安奈が幼馴染みの光への恋心を秘めたまま、光のソヨンへの想いが成就するよう応援してあげるという胸キュンストーリーを基本にしつつ、ソヨンは元カレの北山(光の同級生で売れっ子漫画家。生田斗真)への想いを断ち切れず、その事に気付いた光が絶望的な気持ちになって全てを諦めると杏奈にぼやくと、杏奈が泣きながら光を責め、光に別れを告げて去っていく。そんな時、デビクロくんが久しぶりに現れ、奇跡が起こるというストーリー展開になっています。

光が街角でぶつかった女性を運命の人だと杏奈に説明すると、杏奈は光にその女性の似顔絵を書かせる。女性が落とした豹の足を光が探して見つけ、似顔絵と豹の足を見た杏奈は光の運命の人とは杏奈が今仕事を一緒にやっているソヨンだと分かる。杏奈が担当するメインオブジェの設計図についてソヨンはデザインを褒めるが、オブジェの放つ光に意思を持たせて欲しいという。コミックサイトに参加した光は、大学の同級生だった北山と再会するが、北山は3年前に海外の銀行員を辞め、今や超売れっ子漫画家になり、自分との能力の差にショックを隠せなかった。光はデビクロに変身して一コマ漫画を世の中に撒き、妄想世界の中ではキングだった。杏奈は光にソヨンの顔写真と経歴が書かれた紙を渡して、運命の人ならお礼にと言って渡すようプレゼントも準備してくれていた。光は豹の足とプレゼントを渡すだけで次の約束すら取り付けられなかった。杏奈はプレゼントの中に光の名刺を紛れ込ませソヨンから電話を貰って食事の約束ができた光は有頂天に。光のデート用の服装も杏奈がコーディネイトし、デート場所の下見も同行してあげる。杏奈は子供の頃に父を失い、光からずっと一緒にいると言われて以来、恋心を隠して光と一緒にいた。当日予定していた店が臨時休業でヨソンの行きつけの居酒屋に入ると、マスターがソヨンの顔を見て、久しぶりと声を掛け、いつもは別の人と一緒に来ていたことが分かった。ソヨンは酔っ払い寝込んだので光は家に連れ帰って寝かせ、朝起きると、小鳥に食事をやり、ソヨンの為にてるてる坊主を飾る光からてるてる坊主もプレゼントされ、こっそりと心も晴れるといいなと独り言を言う。家からタクシーで帰るソヨンを向かいの杏奈が見かけ、幸せ一杯の光を見て悲しそうな顔をひた隠す。ある日、ソヨンと再会した光はソヨンが泣いていたので、杏奈とよく来た秘密の場所に連れていき、杏奈との思い出話をすると、ソヨンにも大切な人がいたが、終わったと泣く姿を見て動揺する。光はイブにソヨンへ告白すると杏奈に告げ、杏奈はフランス行きが正式に決まったことを告げる。北山に光の漫画は商売に染まっていないと誉められ、次の作品が出来たら編集長を紹介すると言われて北山の事務所に出掛けると、ソヨンが事務所から出ていく姿を見かけた光。玄関口にソヨンが掛けたプレゼントを見て、ソヨンの気持ちが今も北山にあることを知って、光は全てを諦めて北山に別れを告げる。光は杏奈に漫画もソヨンも諦めるというと、杏奈は怒りだし泣きながら、私の気持ちはどうなるの?この先3年だけでなく光の前からいなくなる、これ以上痛いのはムリ。約束守れないと言って光の前からいなくなる。北山は、光の純真さに当てられて思い出すことがあった。ソヨンの下に駆け出して、ソヨンと離れて漫画が掛けなくなったけど、もう一度最初に読んでもらいたいのはソヨンだというのを思い出して二人で描きたいと告白する。てるてる坊主にソヨンが書いたメッセージは「あなたの雨が上がりますように」だった。光は空港にいる杏奈の下に走った。雪で遅れた搭乗時刻に待合い、光は最後のデビクロ通信を杏奈の掌に書いた。杏奈がようやく自分の気持ちに気付いてくれた光にキスを贈る。