芥川龍之介 ちくま日本文学002 1892-1927

2007年11月20日第1刷発行 2019年2月20日第11刷発行

 

ロッコ大正11年2月)

 小学生の時だったか、教科書に載っていたように思う。子どもたちだけでトロッコを動かそうとして車輪が「ごろり」と音を出して動き出した場面。大人と一緒にトロッコに乗って遠いところまで来てしまったが、帰りは一人で泣きながら線路を走りに走りぬけてようやく帰宅した場面。確かこんな話だったと記憶する。最後の場面では26歳になった良平が登場し、昔のトロッコを理由もなく思い出すことがあるとする。人は成長する。けれども不安の中で絶えず格闘し続けている、というような印象深い内容で終わっていることには今回初めて気づいた。

 

鼻(大正5年1月)

 鼻が大きく垂れ下がった禅智内供が鼻を茹で、他人に踏んづけてもらって一度は鼻を小さくする。が、しばらくすると元の長さに戻ってしまう。ところが、元に戻った時になぜだか鼻が短くなった時に感じたのと同じような、はればれした心もちがどこからともなく帰って来るのを感じたという。結局、この先は、ループのように再び短くしようという気が起きて来るのか、それともこのまま長い鼻のままでいいや、とコンプレックスから解放されるのか。主人公の今後の予想図は何通りもありそうだ。

 

藪の中

 死体を発見した木樵りは凶器は見ていない。死体の傷口と犯行現場の状況を語る。

 被害者の男は立を帯びて馬に乗った女と一緒に歩いていたのを見かけたと旅法師。

 太刀をはいていた多襄丸という盗人が落馬したところを捕まえた役人は、多襄丸が男殺しの犯人だと推測する。

 媼は、娘・真砂が被害者の男・武弘と一緒に旅をしていたところに多襄丸に殺されたと推測。

 ここまでは状況証拠を語る証人らしき人が検非違使に問われて語っている内容。

 次からは、犯人らしき人物が登場して供述する場面が続く。

 まずは、「多襄丸の白状」と題して、男は殺したが女は殺していないと供述する。動機は女を奪うため。女から男を殺せと言われて殺しているうちに女に逃げられたと述べる。

 次は「女の懺悔」と題して、手籠めにされた女が、夫に殺せと言われたので、夫を刺し殺したと述べる。

 最後に「巫女の口を借りたる死霊の物語」と題して、盗人が妻を手籠めにした後、妻が盗人に夫を殺してくれと叫び、二人がもみ合っている最中に妻は逃げ去り、次に盗人も藪の外へ姿を隠した後に、夫は自害する。

 って、ことは自殺?それとも夫殺しの犯人は多襄丸?それとも妻?もし妻なら夫から言われたから?もし多襄丸が犯人ならそうさせたのは妻?一体、どれが本当なんだ?真相は藪の中だよね?ってことが言いたいだけなの?

 

昭和2年7月24日、服毒自殺。享年35歳。天才は何を考えて死に至ったのか。