ホメーロスのイーリアス物語 バーバラ・レオニ・ピカード作 高杉一郎/訳

2013年10月16日第1刷発行

 

盲目の吟遊詩人ホメーロス(紀元前9世紀から8世紀頃)は、紀元前1159年(諸説あり)にあったトロイア戦争にまつわる、人類最大の叙事詩イーリアス』と『オデュッセイア』の叙事詩を吟唱して歩いたとされている。

イーリアスは、ギリシア軍とトロイア軍との間の長い戦争にまつわる、ギリシア軍によるトロイア攻撃から9年目に起こった出来事(アキレウスがアガメムノーンと仲たがいし、親友パトロクロスの戦死にあって復讐を遂げた経緯等)を物語っている。

王の親が神だったりするので、正直、ギリシア神話に馴染みの薄い日本人には、とっかかりがなく、中々読み進んでいけない辛さがあった。巻末のアガメムノーン王の系譜とプリアモス王の系譜に出てくる登場人物に一々戻って、この人がギリシア軍の人物や神で、この人はトロイア軍の人物で神なんだなということを押えていかないと、人間関係というか登場人物の関係性が頭に入ってこないと思う。そういう意味では巻末に人名と地名の詳しい索引も用意されている本書はギリシア神話に馴染みの薄い日本人にとって理解を促進するよう痒い所に手が届くという意味で大変有難かった。

アキレウスとアガメムノーンの仲たがいは、アガメムノーンが一度はアキレウスに認めた戦利品であるプリーセーイスを奪い、この態度に怒った若きアキレウスが大王アガメムノーンに対し敬意を示すどころか無礼な態度を取ったことに由来する。絶世の美女ヘレネ―を巡ってメネラーオスとパリスの一騎打ちでパリスは女神アプロディーテーに窮地を助けられて一命をとりとめた。ギリシア軍とトロイア軍との休戦の誓いは破られ激突する。軍神アレースはアプロディーテーの恋人でアプロディーテートロイア軍の味方だったので、軍神が戦場から立ち去るとギリシア軍が勢いを盛り返す。トロイア軍のヘクトールギリシア軍のアイアースの壮絶なる一騎打ちが行われ、間もなく夜になる時に引き分ける。ギリシア軍が不利だったため、アキレウスとアガメムノーンとの仲たがいの原因はアガメムノーンにあると長老ネスストールは説得し、アガメムノーンはプリーセーイスを返すことを約束し、使者はアキレウスの下に出向く。が、アキレウスは使者の説得に応じようとしない。ギリシア軍からトロイア軍の様子を伺うためにディオメーデースとオデッセイウスの2人が偵察に赴く。首尾よく偵察に成功した翌日、両軍の戦闘が始まる。ギリシア軍の防壁を破ろうとトロイア軍が攻めるも、中々突破できない。が、ついにヘクトールが突破した。しかし、ギリシア軍は人垣を作って再びトロイア軍を押しとどめる。激闘は続く。トロイア軍の最強のヘクトールがやられるとアポローンヘクトールに力を貸して息を吹き替えさせるとトロイア軍は勢いを増してギリシア軍に猛烈な勢いで襲いかかる。ギリシア軍の形勢が悪いのを見たパトロクロスアキレウスの下に戻って戦況を伝えた。しかしアキレウスはアガメムノーンと仲直りをするつもりはなかったため、パトロクロスアキレウスの鎧兜を代わりに着て出陣することにした。3度の大活躍をしたパトロクロスだったがアポローンに打ちのめされ、アキレウスが仇を討ってくれると宣言し、ヘクトールに止めを刺されて死んだ。パトロクロスの死体を守るためにギリシア軍の勇士は戦い続けた。パトロクロスの死を知ったアキレウスは3度トロイア軍に向かって大声で叫ぶと、トロイア軍は恐怖に襲われて引き下がって行った。神のヘーパイストスアキレウスのために鎧を作って準備し、母のテティスアキレウスに渡す。アキレウスはアガメムノーンに戦闘命令を出すよう求め、将兵は戦闘に備えて飲み食らい鎧兜に身を固めて全軍はトロイア軍との戦いに出発する。アキレウストロイア軍を次々に情け容赦なくなぎ倒していく。複数の神々はそれぞれギリシア軍とトロイア軍の味方となり壮絶な戦いを繰り広げる。が、アレキウスがあまりに次々と殺していくので、河神スカマンドロスが人殺しはもうやめろと諭す。アレキウスという人間とテティスやスカマンドロスという神がやり取りをするというのはやはりギリシャ神話特有の設定なんだと思う。さりとて日本の古事記もそういうものなのかもしれないが。

トロイア軍最強のヘクトールとアレキウスが相まみえるが、結果はアレキウスが勝利する。アレキウスはパトロクロスの葬礼を行うが、気が晴れない。ヘクトールの死体を戦車に結び付けてパトロクロスのの墓土のぐるりをサンド引きづり回し、11日連続で同じことを繰り返した。プリアモス王は息子ヘクトールの死体を引き取りにアレキウスを訪ねる。一人でやって来た父の勇気をアレキウスは褒めたたえ、ヘクトールの死を悼む11日間を静かに過ごすことができた。パリスの矢が偶然にもアレキウスを貫き即死させるが、ほどなくパリスも死ぬ。プリアモス王もアガメムノーンも死んでいく。ギリシア軍とトロイア軍の戦争は終わった。「結局は、勝った側にも敗けた側とおなじように、ほとんどなんの利益ももたらさなかった戦争であった」。(おしまい)

これが世界の名著となっているのは、うーん。ギリシャ神話を知らない日本人には理解し難いような気がする。