月下の恋人〈上〉 浅田次郎

2016年6月10日発行

 

情夜 妻と子に愛想をつかされ、昼から酒を飲んでいるだらしない男に、女をあて先とする謎の手紙と20万円が入った現金書留が届いた。住民票を取ると、その女の名前が記載されていた。女が男の家を訪ねてきた。

告白 梓は学校の友だちから義父をあいつ呼ばわりするのをやめるよう忠告を受けた。義父と会話する中で、心のわだかまりを乗り越え、勇気を出して「お父さん」と呼んだ。

適当なアルバイト 二人のちゃらんぽらんの学生がお化け屋敷でアルバイトをした。前任者が死んでしまったので引継ぎがなく、適当にやるよう言われていたのに、現場には山田さんという先輩がいた。しかし山田さんこそ本物の幽霊では?と思い、2人は1日でアルバイトをやめた。

風蕭蕭(しょうしょう) 司馬遷史記・列伝中の第二十六「刺客列伝」とヤクザ映画には共通点が多い。博士論文に取り組む男が荊軻始皇帝暗殺に向かう際に詠んだ詩「風蕭蕭兮易水寒 壮士一去兮不復還」を原語で口ずさむ。読み下しは「風蕭々(しょうしょう)として易水寒し。壮士ひとたび去って復また還かえらず」。荊軻が覚悟を決めて親友と別れて暗殺の旅路に出る時に詠んだ歌だ。背景を知っていれば、多少面白いかもしれない。

忘れじの宿 忘庵という宿に泊まった男の痼りを按摩がもみほぐしていく。男は妻が癌で亡くなって13回忌を迎えた。妻とは5年間しか一緒に生活できなかった。今から5年前に仕事を手伝ってくれる女性がいた。この女性と再婚を勧められたが、まだ決断できなかった。柵(しがらみ)は忘れようにも忘れられない。しかし忘れなければ前に進むことが出来ない。そんなお話だ。