彦左衛門外記〈上〉 山本周五郎

2014年6月10日発行

 

本作は滑稽小説である。歴史小説ではない。タイトルの彦左衛門は主役といえば主役と言えなくもないが、真の主役は甥の五橋数馬だろう。数馬ははち切れんばかりの野心家で宇都宮十一万石の奥平家のちづか姫に一目惚れし、上屋敷に忍びこみ恋を成就させるが、七百石の旗本の養子ではつり合いが取れず結婚の障害となる身分の違いを克服するため、隠棲中の大叔父大久保彦左衛門を担ぎ出し、実際には何ら功績があった訳でもないのに、次から次へと勇ましい軍記を紡ぎ出させた。

 

山本周五郎の作品の中では異色の作品だと思う。何かのパロディなのか判断はつかないが、世に有名な彦左衛門の御意見番としての虚像をはぎ取ろうとしたのは何故なのだろうか。その種明かしが作品の中に埋め込まれているのかどうか。そこはまだ読みとれなかった。