萩原朔太郎 1886-1942 ちくま日本文学036

 

言わなければならない事

詩を作る人にとっていちばんわるい病気は考へるといふことである。中年の人はよく考へる。考へるといふことを覚えた時その人は詩を忘れてしまったのである。

詩とは五感及び感情の上に立つ空間の科学である。

 

“詩とは空間の科学!”何という素敵な言葉だろう。

 

郷愁の詩人 与謝蕪村

 蕪村は不遇の詩人。蕪村の価値を最初に発見したのは正岡子規。しかし蕪村の真の研究を忘れている。

 芭蕉は主観的の俳人、蕪村は客観的の俳人

 これ自体、疑いない。しかし客観的特色の背後における主観を見ていない。

 子規一派は写生主義の規範的俳人と目したが、蕪村は単なる写実主義者ではない。反対に蕪村こそは一つの強い主観を有した、真のは行くの俳人であった。その主観の実体は、彼の魂の故郷に対する「郷愁」であり、哀切な思慕であった。

 

“凄い分析”をしている。朔太郎が、蕪村をここまで評価していたとは全く知らなかった。