チェンジ! パラアスリートを撮り続けて、ぼくの世界は変わった カメラマン越智貴雄

2020年6月5日初版第1刷発行

 

素晴らしい本でした。著者がカメラマンのため、パラアスリートの迫力満点の写真が随所に掲載されていること自体がとても素晴らしいのだが、それ以上にパラアスリート一人一人のパラリンピックに登場するまでの苦闘・人知れず努力をし続ける姿や人間性に着目し、パラアスリートのことをよく理解したうえで撮影に臨む著者。しかもパラアスリートの素晴らしさを伝えるためには撮影場所を管理する職員とも言葉を交わし(当然色んな国がある)信頼関係を築きながら最適な場所を確保しつつ、そして地面に寝そべりながらパラアスリートの競技の瞬間瞬間を見逃さずシャッターを切り続ける著者。

 

多くのパラアスリートが紹介されていたが、代表的な選手の言を紹介したい。

競泳の成田真由美選手。下半身まひのため手の力だけで泳ぐ。4大会連続でパラリンピックに出場し15個もの金メダルを獲得した伝説的な選手。「楽な練習というのは、絶対にありえません。どれだけ苦しい戦いを自分に課して、いかにそれを乗り越える、という毎日のくり返しでした。あれだけの苦しい練習があったから、子の記録が出せた(リオでアジア新記録)のです。だから、このアジア新記録は当然だと思います」

車いす陸上の小島将兵選手。早稲田大学時代、箱根駅伝で8区を走った小島選手だが、25歳で骨肉腫にかかり左脚を切断しパラリンピックを目指す。ところが29歳で再びガンが襲い31歳で亡くなる。亡くなる直前に小島選手は奥さんに「君は、ぼくよりも可能性にあふれているんだから、やろうと思えば、自分次第でどんなことだってできるんだから。それをムダにしないで」と語ったという。

コラムで登場するパラ陸上選手の村上清加さん。25歳で事故で右足切断を経験。義足を隠したい、知られたくないという意識から、自分の可能性に気づき、義肢装具士の臼井二三男さんが作る義足にたましいがこもっていてそれをはけることに誇りを持ち、義足のファッションモデルとしての活躍。周囲・社会の方が変わらなければいけないとつくづく感じ入ったコラムでした。

「切断ヴィーナス」の発刊や、義足のアスリート村上清加選手のポスターなど、障害者に光を送り続けている。

2016年にはスイスで初めて「サイバスロン」大会が開催。機械を作る研究者も一体となった競技。F1をイメージするとわかりやすいと解説している。

義肢装具士の臼井二三男さんのコラムもまた俊逸。

「壮大なる夢」を持ち続けて夢を実現しようとしている著者とアスリートの姿に、本当にいろんなことを考えさせられました。本当に素晴らしい本でした。