三人姉妹 チェーホフ 神西清訳

昭和42年8月30日発行 平成2年8月20日47刷改版 平成19年5月20日67刷

 

帯封「単調な田舎の生活の中でモスクワに行くことを唯一の夢とする三人姉妹が、仕事の悩みや不幸な恋愛などを乗り越え、真に生きることの意味を理解するまでの家庭を描いた『三人姉妹』」

 

第一幕

 プローゾロフ家の三女イリーナの“名の日”(当人の洗礼名と同じ名の聖人の命日)である1年前の5月5日に、将軍で旅団長だった父が亡くなった。オーリガは一年前に死んだ父を回想し、モスクワからこの町に連れられてきた。20歳になったイリーナは額に汗して働かなくてはといい、陸軍中尉トゥーゼンバフ男爵もこれまで一度も働いたことがないが、時代は変わり人は皆働くようになるという。次女マーシャは浮かない顔をして外出する。43歳の陸軍中佐ヴェルシーニンがモスクワから転任してブローゾロフ家を訪ねる。英語が使えるアンドレイはバイオリンを弾いているが出ていこうとする。マーシャはアンドレイを連れ戻す。ヴェルシーニンは妻と二人の娘を連れて訪れるが、妻は難しく、やり直せるなら決して結婚はしないなどという。次女マーシャの夫の中学教師クルイギンは自らが書いた中学校史の本をイリーナにプレゼントし、マーシャにキスする。トゥーゼンバフは、イリーナと二人だけになると、彼女への愛を告白する。アンドレイのいいなずけナターシャが皆にからかわれ、傷ついたナターシャは広間から客間へと走り出て両手で顔をおおう。アンドレイはそのときプロポーズする。

 

第二幕

 三年後、オーリガは教員として働き続け、イリーナは電信局で働く。アンドレイは市会の書記として働く。ナターシャとの間にはボービクという子が誕生している。熱が出たボービクを心配し、人を中に入れないでとアンドレイにいう。クルイギンに幻滅したマーシャは愛想の欠けた人を見ると胸ぐるしくなる。ヴェルシーニンは夫婦喧嘩して家を飛び出し、愚痴をこぼせるのはあなただけだと言って、マーシャに告白する。マーシャはこわいけれども話をしてという。イリーナは、詩的でもなく、思想もない今の仕事に幻滅を感じ、他の勤めを探そうとする。マーシャは人間は信念がなくてはいけない、何のために生きるのか、それを知らないと何もかもくだらない根無し草になってしまうという。ヴェルシーニンは妻がまた毒を飲んだと聞いてマーシャに別れを告げて帰宅する。陸軍二等大尉ソリョーヌイがやって来てイリーナに告白。しかしイリーナに冷やかに拒絶すると、彼は競争者を殺してやるという。ナターシャは、ボービクのためにイリーナに部屋を譲ってほしいと頼む。オーリガは校長の代理で働いてくたくたになり頭痛がして明日明後日が休みだと言いながら退場。 ナターシャはプロトポーポフから誘われたドライブに出かけ、イリーナは悩ましげにモスクワへの想いを募らせる。

 

第三幕

 イリーナとオーリガの部屋には衝立で仕切られたベッドがある。近くで火事が起きる。ナターシャは早く罹災者の救済会を作らなければならないという立派な話が出ているが、大ぜいの人が押しかけて来て子供たちにインフルエンザをうつりゃしないかと心配し、また役に立たない老婆アンフィーサを部屋から追い出し、オーリガにどうして老いぼれを家に置いとくのと尋ね、オーリガはナターシャに謝る。軍医チェブトイキンは、医者として昔の知識しかない為にある女を死なせたことを悔い、気を紛らす為に酒を飲む。男爵トゥーゼンバフは罹災者救済の音楽会でピアノが堪能なマーシャに演奏させたいとクルイギンと相談すると、校長に話しをしてみると答える。チェプトイキンはかつて慕っていた三姉妹の母親からもらった時計を落として壊す。ヴェルシーニンは驚愕と恐怖に怯える娘たちの顔を見てこの先どんな目に遭うだろうと不安に苛まれる。マーシャはヴェルシーニンをはじめは変な人だと思っていたがそのうちに恋してしまったと、オーリガに告白する。イリーナは議員になっていばるアンドレイを堕落したと評し、彼が火事場へ駆けつけず自分の部屋にこもってバイオリンばかり弾いている姿を糾弾する。自分は今は市役所に勤めるようになったが、回ってくる仕事がばかばかしく、モスクワに行けば本当の人に出会えると空想する。オーリガはイリーナを慰め、醜男でも折り目の正しい純潔なトゥーゼンバフのお嫁に行くよう勧める。アンドレイは姉妹に対しナターシャを尊敬するようにと要求するが、誰も聞いてくれず泣く。イリーナはトゥーゼンバフの嫁になることを決意し、オーリガに一緒にモスクワへ行こうと誘う。

 

第四幕

 砲兵中隊がポーランドへ移る。プロゾーロフ家の人々は兵隊たちとの別れを惜む。イリーナは、明日トゥーゼンバフと式を挙げて、明後日には小学校に着任する。イリーナに恋した陸軍二等大尉ソリョーヌイは、広小路でトゥーゼンバフに決闘を申し込む。決闘の介添人となった軍医チェブトイキンはあと一年働いて退職し恩給で余生を送る予定。校長になったオーリガは学校に寝泊まりし、アンフィーサも一緒に学校の宿舎に入る。家に残るアンドレイは妻ナターシャが時どき俗悪な女に見えてしまい途方に暮れる。チェブトイキンはアンドレイに振り返らずに出ていくよう勧める。ソリョーヌイが現れ、決闘の場所に向かう。トゥーゼンバフは一時間で帰ってくるとイリーナにいう。イリーナは忠実な従順な妻になると誓う。アンドレイは過去を思い出し、なぜ不仕合せな人間になってしまったのかと嘆く。感慨に浸るアンドレイは大事な姉妹たち!と涙声で呟くと、ナターシャから赤ちゃんのために大きな声を出さないでと注意される。この町や姉妹たちに馴染んでいたヴェルシーニンは惜しみながら別れを告げる。チェブトイキンが、決闘でトゥーゼンバフが殺されたことをイリーナに伝えると泣き出す。オーリガは二人の妹を抱きしめながら、わたしたちの苦しみは、あとに生きる人たちの悦びに変わり、幸福と平和がこの地上におとずれる、楽隊の音を聞いていると、なんのためにわたしたちが生きているのか、なんのために苦しんでいるのか、わかるような気がすると言って幕が下りる。

 

筋を追うだけで精一杯で、この作品を通して著者が言いたいことが何だったのかは少し思索が必要だ。