日本のカルトと自民党 政教分離を問い直す 橋爪大三郎

2023年3月22日第1刷発行

 

表紙「統一教会日本会議…宗教社会学の第一人者がタガの外れた政教癒着を警告 日本人は、宗教の訓練が足りない」

表紙裏「カルトが、日本を蝕んでいる。安倍晋三元首相暗殺を機に、統一教会自民党に食い込んでいた実態が明らかになった。だが、病巣はもっと深い。統一教会以外の宗教勢力も自民党に隠然と影響を与えている。なぜこんなことになってしまったのか? 原点に立ち戻り、政治と宗教の関係を考え直す必要がある。政府職員も市民もカルトの正体を見抜く基礎知識を身につけよう。そして政教分離の原則を改めて体得しよう。本書は宗教社会学の第一人者がカルト宗教の危険性を説き、民主主義と宗教のあるべき関係について、基本から明快に解説する。」

裏表紙「カルトが、日本を蝕んでいる。統一教会自民党に深く深く食い込んでいいた実態が明らかになっている。カルトはよくない。カルトにつけ込まれた自民党はもっとよくない。ありがちな感想だ。これで結論が出たような気がして、気がゆるんでしまうと、カルトの思う壺である。大事なのは、カルトの正体を見届けて、カルトの息の根を止めるやり方を覚えること。そうすれば、カルトが今度また忍び寄って来ても、きっぱり片づけることができる。日本人は、こういう訓練が足りない。(序『カルト原論』より)」

 

序 カルト原論

宗教はウイルスにたとえられて、病原性が高くよからぬ状況を引き起こすものがカルト。

日本では政教分離と信教の自由のロジックが良く理解されていない。大学でも教えないしテレビや新聞でもきちんと説明していない。だから政治家が特定の宗教団体の支援を受けたり、宗教団体が政治力を発揮したりすつことが民主主義にとって危険なルール違反であることがわからない。アメリカでは教会や宗教団体の組織票はないし、教会を買収もできない。一人一人の投票行動は自由でなければならず、宗教団体がどの候補を支援するかを決めて信徒にそれを伝え信徒の投票行動を左右することは選挙法に違反しないかもしれないが民主主義の精神にも憲法の原則にも反する。

第1部 生長の家から日本会議へ 成長の家の歴史を学ぶことが出来た。

第2部 統一教会自由民主党

文鮮明の経歴に触れた後、原理講論の読解をすることが必要だとする。統一教会キリスト教儒教道教のハイブリッドと考えるべきではないかと問題提起する。この書物の核心は①堕落論〈罪=堕落、罪は血統により承継される、メシアが真実の父母となって現れるのならば、人々の罪を清めることができる。そのメシアこそ文鮮明だと信徒は信じる⇒合同結婚式は教義から必然的に導かれる儀式〉②創造論(陰陽の世界観を下敷きに、神が世界を創造する、世界は原理に従って成長する、原理が働いている間、神は見ているだけで手を出さない、人間は自分の責任で成長する、その責任は神の責任と同様である、人間が成長し完成すると、人間と神は一体のものになる)③メシア論の3本柱で、(1)あなたは乱れた性によって生まれつき罪深く汚れている(2)それが救われるには汚れのないメシアに血を清めてもらう必要がある(3)聖書はメシアがいま韓国に生まれることを予言している、そのメシアこそ文鮮明先生である、を結論とする。

結 政教分離と民主主義

宗教の価値観、世界観がストレートに政治に反映してしまうことは問題である。正しい信仰を持っている人々が政党をつくったからといって、ほかの政党よりましなものができるわけではない。それゆえに国政政党としての公明党は解散するのが良いと思う。共産党はその看板を下ろそう。政党は与党と野党と2つあれば十分である。乱立している野党はどれも解散して一つになりなさい。政策を近づけようなどとしてはいけない。政権を取ることを目的としてはいけない。正しくて有効で近代的な政治のスタイルを創作する。自民党統一協会日本会議と絶縁し公明党との連立を解消しよう。

有権者は選挙のつどよく考えて投票するからあらかじめ投票先が読めない。こういう人々こそ本当の有権者だと思う。

 

かなり乱暴な議論だと思う。社会学者だということだが、一般に理解されている宗教社会学憲法学の通説とは異なっていると思う。公明党を飛び越えて創価学会の価値観、世界観が政治に反映してしまうというのは何の根拠があってこう主張しているのだろうか。国家の中立性を求めるのが政教分離原則であり、政治に宗教団体が口を出すことに問題があるという理解はされていないはず。統一教会問題は社会的に問題がある行為をくり返していることが問題なのであって、宗教と政治の問題ではなく、問題ある行為を繰り返す団体と政治家との距離の問題のはず。そういう一般的な見解と著者の見解を対比する形で、どちらが説得的な議論なのかについて突っ込んだ議論を展開して欲しいと思う。