一路〈上〉 浅田次郎

2015年4月25日初版発行 2020年6月10日19刷発行

 

帯封「累計100万部突破!大反響の国民的人気小説 いざ、疾風怒濤の参勤道中へ

裏表紙「失火により父が不慮の死を遂げたため、江戸から西美濃・田名部郡に帰参した小野寺一路。齢十九にして初めて訪れた故郷では、小野寺家代々の御役目・参勤道中御供頭を仰せつかる。失火は大罪にして、家督相続は仮の沙汰。差配に不手際があれば、ただちに家名断絶と追い詰められる一路だったが、家伝の『行軍録』を唯一の頼りに、いざ江戸見参の道中へ!」

 

参勤交代を仕切る供頭の小野寺家の嫡男小野寺一路の父親は、西美濃田名部郡の屋敷で失火を起こし、命を落とした。拝領屋敷の焼失は家名断絶に等しい不祥事だが、参勤の出立が迫っていたため、重臣蒔坂将監や家老由比帯刀の口添えで一路は家督を相続し供頭の務めを果たすこととなった。田名部の旗本蒔坂(まいさか)左京大夫の石高は7500石で大名と同等に扱われる交代寄合表御礼衆を務め、隔年の参勤を果たす必要があったからだ。一路は江戸で生まれ育ち、父から供頭を全く教わっておらず途方に暮れたが、焼け跡から見つかった文箱から先祖が記した参勤の記録「元和辛酉歳蒔坂左京大夫様行軍録」を見つけた。誰からも協力を得られない中、旅籠で出会った易者の助言でこの記録の通りに古式通りの参勤交代を実施すればお咎めなしで済むかもしれないと考え、以前は50名だったのを一路は総勢80名の陣容とした。劈頭は容姿端麗の佐久間勘十郎、先達は双子の馬喰の丁太と半次が勤め、長さ一丈重さ五貫の東照権現様御賜之朱槍二筋を持ち、殿の馬も白馬一頭だけでなく馬喰の斑馬を加え二頭とした。許嫁の国分カオルが羽織一式を届けてくれ、一路は初めて会ったカオルを娶りたいと思った。初日は陣太鼓を合図にスタートし、田名部八幡宮で道中平安を祈願、殿の気合いに呼応して家来は一糸乱れぬ勝ち鬨を挙げ、初日の鵜沼宿に着いた。

二日目の駕籠の中で足を攣った殿の描写は大変面白い(報復絶倒もの)。殿は斑馬に乗り付け、夜は小姓が軍記を奉読する。参勤道中は行軍なので眠っていないと見せかけるために奉読するものでその通り実践した。三日目は御役御免となった三葉葵松平河内守一行と鉢合わせしたが、一路の巧みな弁舌で河内守を平伏させて一行は先に進む。夜半に一路は朧庵から後見役の将監と国家老の由比が御家乗っ取りを画策しているとの話をしているのを聞き、全てが疑心暗鬼になる。栗山真吾にこのことを伝えると、真吾の父も一路の父もいずれも謀殺されたとしか考えられない。その二人のやり取りを勘十郎が聞いていて、2人に笑止にも程があると言う。何と80名全員がその噂は耳にしており、知らぬは2人だけだと教えた。そして勘十郎は皆が殿の姿を見て忠義心が目覚めたと語った。四日目は与川崩れを敢行する。殿の一声で重荷を捨て荒縄一つで皆難所を乗り切った。将監は殿の暗殺を企図したが、斑馬で難所を乗り切る殿の姿を見て、伊東喜惣次は名君ではないかと思い、将監に付き従ってよいのか迷い始める。五日目は一人も落とすことなく与川越えをしたことが信じられない関守が検分した。関守は与川越えに感動して捨て去った道具一切を拾って届けた。六日目は湯に浸かる殿を勘十郎が傍で護った。