プリズンホテル〈1〉夏 浅田次郎

2001年6月25日第1刷 2010年12月7日第34刷

 

裏表紙「極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを『プリズンホテル』と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる、笑いと涙のスペシャル・ツアーへようこそ。」

 

極道の世界を描いた売れっ子の小説家木戸孝之介が、父の七回忌で会った叔父(仲オジ)から、ホテルのオーナーになったので一度来いと誘われた。任侠団体専用のホテルに新しく転属された支配人花沢は以前ホテルでボヤを出して消防車を呼んで以来毎年左遷続きで最後に辿り着いたのがこの『奥湯元 あじさいホテル』だった(花沢は十年前に赤坂クラウンを水びたしにした。行く先々で支配人とやり合い、ひとところに一年と落ち着けない放浪ホテルマン。そのくせお客から山のようにお礼状や宅配便が届いて、届くころに本人はどこかに飛ばされる男だった)。副支配人の黒田はカシラと呼ばれ、体に彫物がある関東桜会大曽根一家を団体客として受け入れていた。木戸は月20万で買っている清子という秘書を連れてホテルに出掛けてスイートルームのような部屋で仕事をしていた。そこへ会社を定年退職した若林隆明が妻と共にやってきた。彼は新洋商事取締役部長で総会屋と付き合いがあり、仲オジのことを知っていた。妻はこの旅行で面白くもない夫と熟年離婚を切り出すつもりで旅行に同伴していた。ホテルには凄腕の板長の梶平太郎と食中毒を起こして左遷されたフランス料理を得意とする元クラウンの一流シェフ服部正彦が腕を競い合いつつ互いにその腕を認めていた。更に一家心中を計画した小田島仙次と妻八重子が子供たちと泊まりに来ていた。木戸は毎日日記をつけていた。かれこれ30冊に及んでいる。原稿用紙に向かう前のウォーミングアップに有効であると気づいたのは最近のこと。そんなおかしな人たちが集まりドタバタ劇が繰り返される中、刺客が現れて逆に殺され、世界が止まってしまった。

一種の喜劇を小説で書き著わした作品。