2008年1月25日初版第1刷発行
江戸怪盗記
鬼系犯科帳の「妖盗葵小僧」に似た話である。葵小僧市之助は尾張の役者で桐野谷紋十郎の子として生まれ、低い鼻に愛嬌があり子供なりに自信と誇りを得たが青年になり人気も落ち役もつかなくなり惨めさを味わい、茶屋女のしのぶに入れあげた結果、騙されたことを知り、つけ鼻をすることで颯爽たる美男に変身した後に強盗団の天野大蔵に拾われ、教え込まれた剣術を見事に使って悪行を全国各地で働き大蔵のあとを継いだ。平蔵が市中巡回をしていた時、葵小僧一行が戎屋から外へ出た時に鉢合わせとなり、平蔵が投げ付けた六尺棒が市之助の鼻を掠めるとつけ鼻が落ち、市之助は立ちすくみ御用となった。市之助は押し入った先で犯した女の名をぺらぺらと喋り、表沙汰になるところだったが、平蔵は記録をすべて自分の手に収め市之助の首を刎ねてしまった。2度の市之助の被害にあった日野屋久佐次郎とおきぬ夫妻は本所の方角へ足を向けて寝られないと言い合った。
白波看板
盗賊・夜兎の角右衛門には自分と一味に課した厳しい戒律があった。一、盗まれて難儀する者へは手を出すまじきこと。一、つとめするとき、人を殺傷せぬこと。一、女を手ごめにせぬこと。ところが、角右衛門の知らないところで戒律を破った者がいることを知ったため、角右衛門はこれまで貯めてきた金を全て配下に分け与え、自らは直ちに平蔵に自首した。平蔵の人柄に惚れ込み平蔵のために働くようになった角右衛門だったが、仲間から裏切者として斬殺された。平蔵は自邸の庭に角右衛門の骨の一部を埋めて稲荷の祠を作って朝夕の礼拝を怠らなかった。
熊五郎の顔
怪盗雲霧仁左衛門の乾分の中でも四天王の一人熊五郎は、目明しの政蔵を殺した張本人だった。茶店を開いていた政蔵の妻お延は、近く熊五郎がこの辺りを通ると聞き、人相書きを見て大層驚いた。数日前に病で看病して関係を持った男の特徴、耳と体のほくろの大きさと位置が一緒だったからだ。熊五郎は平蔵の与力に無事に捕まった。熊五郎がお延との関係をバラすのではないかとお延はハラハラしたが、その直後、関係を持った男が戻ってきた。なんと熊五郎と瓜二つの双子の兄弟だった。
金太郎蕎麦
生まれる前に父親を亡くし、6歳で母を亡くしたお竹は、伯父夫婦の世話になったが、次第に邪見にされ、一人息子の伊太郎と只ならぬ関係になった後も、結局下女扱いされて、伊太郎と別れた。お竹の肌は抜けるように白くて男の肌を溶かし込んでしまうほど肌理が細かい。そんなお竹の躯に惚れ込んだ男がある時お竹の客になった時に20両もの大金をお竹にくれた。お竹は念願の蕎麦屋を開いたが、蕎麦の味が上手くない。お竹は彫り物師ちゃり文を訪ねて左の乳房に鉞をかついだ金太郎の真っ赤な顔が彫りこめられ、金太郎の無邪気につきだした口がお竹の乳首を吸おうという図柄が彫りこまれていた。お竹の左半身に金太郎が抱き着いているという趣向だった。お竹は腕のいい職人を借りるためにこれを見せ、3か月の期限付きで職人を借りた。これが奏功し、お竹の店は盛況となった。それから1年後、大泥棒鬼坊主清吉の処刑が行われた。この男こそお竹に20両をぽんとくれた男だった。