新装版 鬼平犯科帳(三)1⃣ 池波正太郎

2006年4月12日第1刷発行

 

裏表紙「幕府火付盗賊改方の長官・鬼平こと長谷川平蔵が、ときにはユーモアをまじえ、ときには鋭い勘を働かせて凶悪な盗賊を相手に大奮闘をつづける。その颯爽たる立廻りが大評判の人気シリーズ第三巻は、『麻布ねずみ坂』『盗法秘伝』『艶婦の毒』『兇剣』『駿州・宇津谷峠』『むかしの男』の全六篇。」

 

麻布ねずみ坂

 指圧師の中村宗仙は平蔵にはタダで按摩を施すが、普段はお八重を救い出すために五百両の大金を大阪の白子の菊右衛門にせっせと送った。しかし間に入った石島清之進が途中から自らの懐に入れてしまい、約束を破ったと勘違いした菊右衛門は配下の者を使ってお八重を殺害し、宗仙も殺しに来た。寸前のところで宗仙は殺されずに逃げ出し平蔵の下で調べを受けて洗い浚い白状すると、菊右衛門は五百両を宗仙に返してよこした。宗仙は半分を自分のために殺された男の遺族に、残る半分をお八重の為に立派な墓を建て、3日とおかず墓参りをした。石島清之進は菊右衛門の手が回って殺害されていた。

 

盗法秘伝

 平蔵に休みを与えるため火付盗賊改方が解かれたタイミングで、木村忠吾とともに京の旅に出た平蔵だったが、途中で無頼漢に襲われた男女二人を助けた平蔵の姿に感心した老人伊砂の善八が平蔵と旅をしばし供にした。忠吾との合流場所に現れなかった平蔵は、この老人から今まで一人で江戸以外で盗賊を働いて来たこと、その秘伝を平蔵のことをもう少し見たうえで伝授しようなどと言い、実際に無頼漢に襲われた男女二人の雇主枡屋市五郎の店に入り込み錠前を火箸のようなもので簡単に開け642両を分けなく盗み出し、店に連れ戻された男女二人が逃げだすのを助けたのを見た。平蔵に50両を渡し、更に秘伝を認めた一部を読ませ、お目あて細見と題する、盗みに入る家やしきの図面や主人夫婦の性格や奉公人の数などがびっしりと書きしたためられていたものを見せられた。忠吾と合流すると忠吾にこの老人に平蔵の身分を話をさせると、老人は驚愕し、お目あて細見は預かったままとして、早く隠居せよ、今度会ったら運の尽きと思えと言い捨てて、この老人を見逃した。

 

艶婦の毒(前編)

 忠吾と共に京に入った平蔵は、父の眠る華光寺をお参りした後、北野天満宮を出た矢先に忠吾とお豊と思われる女を見かけた。お豊は前日に忠吾と出会っていた。忠吾は翌日に平蔵と合流したためお豊とはもう会えぬと思っていたら平蔵が自由にしてくれたので再びお豊と会う。平蔵は何食わぬ顔をしてその翌日も忠吾を自由にすると、再びお豊の下へ。忠吾もとんでもない女にひっかかったものだとごちながら、忠吾と逢引した後のお豊を付けていくと、万絵具所・柏屋四郎助ののれんをくぐった。もともと平蔵は27歳の時、父親と一緒に京都へ移り放蕩を尽くした。そこで平蔵はお豊と10日も愛欲の日々を送ったが、父のいる旅籠に戻ると、父からお豊のいる茶屋は盗人宿であると聞かされ声も出ない。お豊は店の抜け穴を通じて逃走し、平蔵の遊蕩はこれを機にきっぱりとやんだ。そのお豊と忠吾が、と考えると、平蔵は夜も眠れず翌日は忠吾に一歩も出るな、留守番せよと云いつける。忠吾は手紙をお豊に渡す。忠吾と別れたお豊の跡を付けていた平蔵が津国屋という旅籠に入って行ったことを突き止めたお豊の知り合いの浪人は平蔵のことを調べると江戸の旗本らしいということが分かった。平蔵は忠吾に手紙を書き、俵駒で待つとの手紙を走らせて、忠吾と合流した。平蔵はこの浪人の後を忠吾につけさせた(了)。