平蔵の首《下》 逢坂剛

2016年6月10日発行

 

繭玉おりん

 小平治は3年前、友綱の十郎兵衛と組んで油問屋大村屋善右衛門に押入った。公家憲一郎に包囲され神妙にお縄につけと言われ、十郎兵衛は逆上して火を放とうとしたので小平治は命がけで止めた。その小平治が火盗改の手先を務めるようになり、平蔵の供をすることもあった。ある時、平蔵の供を務めた際、小僧三吉が平蔵にぶつかった。そこに中年増の女おりんが駆け寄った。2人とも掏摸だと見抜いた平蔵は2人の跡を小平治につけさせた。参吉は蝋燭問屋浪花屋清兵衛の小僧で、おりんは一膳めししのはすで働いていた。おりんの振舞いが余りに自然すぎることが気になった平蔵の勘は当たり、十郎兵衛の一味だった。しのばずの隣の諸国銘茶所吉田屋伊兵衛で8両が盗まれる騒ぎが起きる。店の者が目を離したすきに帳場から、蝋燭を収めにきた三吉が盗んだと疑いをかけられ、吉田屋の源三が三吉を犯人扱いした。三吉は否定した。平蔵は浪花屋への押し込みと、吉田屋で消えた8両が気になった。三吉と源八に50両ずつ渡して両替をさせてどちらがくすねるか泳がすと、2人ともくすねた。しかし8両は両名とも否定した。平蔵は源八が内股に11両隠していることを見抜いた。源八は引き込み役として吉田屋に潜り込んだが50両に目がくらみ姿を消そうとしていた。浪花屋清兵衛の正体は手枕の吉兵衛で、吉兵衛は金子紛失に火盗改が絡んできたことに不安を覚え、高飛びの準備を始めていたところに、平蔵が踏み込んで一味をひっ捕らえた。おりんは、三吉の母ふでを殺した男を見、それが源八と分かったので、仇打ちを果たしてやりたいと考えていた。おりんは三吉を浪花屋に奉公人として送り込み、押し込みをかけるタイミングを見て火盗改めに投げ文をするつもりでいた。そしてその後江戸から逃げ出すつもりでいたが、平蔵宅に出頭してきたのだった。掏摸で平蔵から盗み取った紙入れに、〈罪は問わぬ。心あらたまらば、役宅を尋ねるがよし。平蔵〉と書いてあったのを見てから気が変わって出頭した。平蔵は、三吉とおりんを厳刑に処すのでなく寄せ場送りとし、1年程して娑婆に戻れば、再び平蔵宅を尋ねよとおりんに告げる。

 

風雷小僧

 風雷小僧の手口は、人を殺めず、床の間の掛け軸の裏側に推参の紙を貼り残した。呉服問屋江島屋田右衛門の店で一人の女だけが顔を膾のようにされて殺された。平蔵は殺されたおせいの人相書きを作らせた。おせいの身元が嘘であることが判明し、引き込み役を務めたことはほぼ間違いなかった。友次郎は人相書きを見て、おりくだという。おりくはかつて野火止矢左衛門の引き込み役を務め、矢左衛門の右腕の忠五郎のいろだった。ところが忠五郎が絹問屋の娘おつたと出来たためにおつたに大やけどを負わせたことがあった。別のお務めの際に店の女に手を出そうとした忠五郎が殺された。おつたの許嫁六三郎はおつたが殺されたことで気がふれたようになり、六角と名前を変えて、おりくと忠五郎に意趣返しをした筋が見えた。六三郎は定九郎と名を変え、盗賊の一味となり、矢左衛門が動くだろうと見越して、押し込みの現場で初めて出会った矢左衛門に向かい体当たりした。が手首をしたたかに打たれ懐から推参の紙が一枚すべり落ちた。矢左衛門には公家憲一郎が扮し、平蔵には小源太が扮し、平蔵は矢左衛門の右腕のまほらの頑鉄に扮し、そこに定九郎が矢左衛門に復讐を果たそうと体当たりしたが、果たせなかったが、与力は六三郎の心情を組んで必ずお上がつたの仇を討ってやると請け負ったので、六三郎は思い残すことなく獄門台に登った。

 

野火止

 矢左衛門は丑松に、人手を集めているという噂を流して、六角をおびき寄せようとした。六三郎は既に捕らえられていたが矢左衛門はそのことを知らなかった。しかし直前になって六三郎が捕まったことを聞いた矢左衛門は集めた手下には安達屋への押入りと告げていたので、本当の狙いである灘屋に押入って平蔵の鼻を明かしてやるつもりだった。平蔵は矢左衛門が人集めで呼び寄せた中に友三郎と六三郎をまぎれこませた。六三郎は矢左衛門に本懐を遂げた。平蔵たちが乗り込んだ時には矢左衛門は既に息がなかった。六三郎は手下の名を明かすことなく平蔵に刃を向けてその場で斬られた。平蔵は六三郎がこのことを望んでいたと語った。