影ぞ恋しき〈上〉 葉室麟

2018年9月15日第1刷発行 2018年11月15日第2刷発行

 

裏表紙「吉良上野介の孫娘・香也を養女にした雨宮蔵人と咲弥夫婦のもとに信州諏訪から密使の冬木清四郎が。かの地に配流された上野介の息子・義周が香也に一目会いたいというのだ。諏訪に出向いた一家は、死期迫る義周に清四郎と香也の婚儀を迫られ、承諾してしまう。時は綱吉治世の末期。一家は再び天下の政争に巻き込まれることに。」

 

あれから4年経ち、蔵人は妻咲弥と娘香也と共に鞍馬山で静かに暮らしていた。そこへ冬木清四郎という吉良家の家人だった少年が訪れる。香也は吉良上野介の孫娘で蔵人と咲弥の養女だった。吉良家の家人冬木清四郎が蔵人を訪ね、信濃諏訪藩に預けられている吉良左兵衛が香也に会いたがっているので諏訪に来てほしいと頼む。清四郎の主人を思う心に打たれた蔵人らはこれに応じることにした。諏訪藩には綱吉から寵愛を受けた側用人柳沢吉保(よしやす)の手の者が見張りをしているので腕の立つ蔵人も一緒に向かうことになった。途中で清四郎の剣術の師匠辻月丹が迎えに来た。左兵衛は蔵人に清志郎と香也を3年後に娶らせる約束を望み蔵人は承知した。巫女の〈ののう〉が咲弥を攫って逃げるところを月丹の甥右平太らが阻止した。鞍馬に戻った蔵人に山本常朝が訪ね、清四郎は敵討ちのためにと書き、また「色も香も昔の濃さに匂へども植ゑけむ人の影ぞ恋しき」の歌が綴られた置手紙を書いて姿を消した。蔵人は近衛家の江戸下向の警備役を中院通茂から命じられて清四郎の跡を追って江戸に向かった。近衛の江戸行きを阻止しようとする吉保は柳生内蔵助を同行させ、途中から蔵人の腕試しと称して内蔵助に蔵人に刀を抜かせて内蔵助の同行者を斬らせ、同時に近衛を襲って京に返そうとした。清蔵が近衛警護のために跡を追ったことから近衛は守られ、蔵人も近衛に合流して無事江戸に届けることが出来た。近衛は綱吉、家宣と会い、桂昌院の一回忌に恩赦を帝が望まれていることを伝えた。恩赦が実現すると、吉保は自らが下した浅野内匠頭への厳しい処分について民に怨嗟の声が再び上がるかもしれないと考えて、大石内蔵助の子を弑することで恩赦があったとしても効果が最小限に留まるよう謀ろうとした。月丹から、清四郎は謙信が使った忍び〈軒猿〉の血筋を引く者であると聞いた蔵人は、佐兵衛は自らの仇を討つ命じ、その代わりに吉良家を継がせようとしているのではないかと推察したが、その頃、清四郎は蔵人の前から姿を消した。ののうの頭領望月千代が蔵人に咲弥が柳生内蔵助に狙われていることを告げた。咲弥は通茂の頼みで大石内蔵助の妻りくと三男大三郎を匿っていたからだった。柳生内蔵助は蔵人と対峙した。一進一退の攻防が続く中、清四郎が蔵人の助っ人に現れると、この時をまって柳生内蔵助は大三郎への狙いを口にした。蔵人が咲弥の下に駈け付け危機一髪のところで咲弥らを救出した。桂昌院の一回忌法要は増上寺で行われ、この機に恩赦が行われ、大三郎も許された。世間は吉良邸討ち入りは義挙であったと世間は喝采を叫んだ。以前から確執のあった綱吉と御台所の信子は互いに毒を盛り合い、宇治の間に入った綱吉が息絶えると、直後に信子も急死した。家宣の治世が始まると、吉保が狙われた。大奥に入り込んだ清四郎が女中に化けて吉良左衛門の仇を討とうとした。柳生内蔵助は綱吉暗殺の影に信子がいることを突き止めるために京の島原に入った清四郎を生捕るつもりだった。再び蔵人と内蔵助は切り結び、内蔵助に致命傷とならない傷をつけて蔵人は島原から立ち去り藤左衛門の助けを借りて鞍馬山に戻った。が、吉保は詳しく知り過ぎた内蔵助を始末してしまった。ところが内蔵助の殺害の罪を蔵人になすり付け、家宣の兄越智右近は蔵人はじめ斬首するよう京都所司代に命じた。常朝から手紙を受け取った蔵人は右近と決着をつけるため大阪に向かう。