花や散るらん 葉室麟

2012年10月10日第1刷 2014年7月15日第7刷

 

裏表紙「京の郊外に居を構え静かに暮らしていた雨宮蔵人と咲弥だったが、将軍綱吉の生母桂昌院の叙任のため、上京してきた吉良上野介と関わり、幕府と朝廷の暗闘に巻き込まれてしまう。そして二人は良き相棒である片腕の僧、清厳とともに江戸におもむき、赤穂・浅野家の吉良邸討ち入りを目の当たりにする事となるのだが。解説・鳥内景二」

 

蔵人は角蔵流雨宮道場の看板を掲げ、柔術を教えている。妻の咲弥と香也を連れて村に住んでいる。将軍綱吉の側用人、柳沢保明は、側室に公家の正親町権大納言実豊の娘・辯子(なかこ)を迎えた。辯子は伏見の稲荷神社の神官の息子で古典を研究する羽倉斎と別れたくなかった。辯子の母は元遊女で、辯子は側室となった後、町子と改名した。蔵人が警護役を務めていた中院通茂から呼び出された咲弥は、吉良上野介の手下として動いている神尾与右衛門を斬るよう頼まれる。吉良上野介は、綱吉の生母桂昌院従一位叙位獲得のために、貧窮する公家に神尾与右衛門を使って金を融通していたからだった。綱吉の正室・信子と大奥の采配を振るった右衛門佐は、京の八百屋の娘としての出自を持つ桂昌院を嫌い、生前の叙位を回避しようとしていた。桂昌院付奥女中だったお伝の方は、桂昌院の勧めで側室になり、桂昌院の念願通り、将軍の子を産み、威勢を増していった。幕府は公家出身の正室が将軍の子を産むことを好まず、正室とは名ばかりの存在だった。京第一の評判の絵師尾形光琳は格式を得ようとして法橋の地位を欲し、巨万の富を得た貨幣鋳造所の中村内蔵助との関係を深め、公家が借りた借金問題を解決しようと動いた。町子と斎は、山鹿素行の最晩年の弟子となっていた淺野長矩ならば禁裏の危機を救ってくれると思い、長矩に勅使饗応役を任せれば剣士の堀部安兵衛が吉良邸に入ることも出来ると考えた。公家が借金を返済できる目途が立ったと読んだ吉良は与右衛門をして光琳の銀主を殺すことを企図し、与右衛門は蔵人宅にいた娘や光琳を襲い、光琳が描いた中村の肖像画を奪った。長矩は右衛門佐から暗に堀部安兵衛に神尾与右衛門を斬らせよとの命を受けた。中院邸に訪ねてきた武士夫婦が追っ手に刺殺され、その赤子を咲弥が貰い受けたのが香也だった。両親が亡くなる直前の言葉から吉良家と何らか関係のある赤子だった。通茂は、咲弥に大奥に入り、大奥の女子たちの説得を任せた。他方で長矩の命を堀部安兵衛は拒絶した。長矩は懊悩した。奥田孫太夫を呼ぶと、自ら実行せよと言われる。長矩は次第に自らが吉良を討つことしか考えられなくなり、遂に実行に移した。松の廊下で刀傷沙汰が起きると、咲弥は大奥が騒がぬよう落ち着かせた。刃傷事件で叙位は延期となった。保明は大奥の意向で長矩が起こしたのではないかと訝しがり、一刻も早く浅野の口を封じるしかないと判断し、白洲から庭先での切腹が命じられた。 一方、咲弥が三ヵ月過ぎても大奥からなかなか戻らないので、蔵人は進藤長之を訪ねると、長之から山科に住む家老だった大石内蔵助を将たる器か見定めて欲しいと依頼された。香也は上野介の実の孫だった。上野介の正室富子が殺した時の女が成長して生んだ子だった。蔵人は内蔵助が江戸に向かう際に香也とともに用心棒として同行した。清厳も同行した。保明は吉保と名を変え、吉良は隠居を願い出た。桂昌院の叙位が正式に伝達されたが、信子への警戒心を解くことはなかった。大奥へ入った咲弥は、綱吉の目に留まり、吉保に下げ渡され。将軍が柳沢家へお成りのとき、伽を命じられることを意味した。咲弥は蔵人にその危急を和歌に託して知らせた。その意味を解いたのは清厳だった。蔵人は柳沢邸の火事に乗じて、彼を慕う清厳と二人で乗り込み、咲弥を救出した。その後、香也が行方不明となり、吉良邸にいることが判明した。香也は祖父の上野介に可愛がられてそこにいた。斎は上野介宅で香也を見かけ、蔵人にそれを教えた。斎は後に国学四大人の一人荷田東満(かだのあずまろ)と名を変えた。折しも浅野家遺臣が吉良邸を襲撃するのと同時に吉良邸へ入り、蔵人は香也を救出した。

 

ジェットコースターのような、それでいて痛快なストーリー展開は見事です。忍ぶ恋も背景には一つのテーマとしているところも流石です。