2006年10月25日第1刷発行
表紙裏「横なぐりに脇差をたたきつけてきた。かわしきれず左肩を切り裂かれた平蔵。『鬼平。お前もこれまでだ』闇の底から、綱切の甚五郎の声が聞こえた。…鬼平の危機せまるスリルを描く『兇賊』をはじめ、『深川・千鳥橋』『乞食坊主』『おしゃべり源八』『女賊』『山吹屋お勝』『鈍牛』の七篇。」
兇賊(後編)
大村を見張っていた九平が腹が減ってしゃも鍋・五鉄の店に入る。密偵になったつもりで動いた九平だが、九平の人相書が出回っていたため、伊三次が九平を駕籠で平蔵宅に運んだ。ちょうど平蔵は大村に向って出かけていたため、九平は思いきって知っていることを洗いざらい告白した。平蔵が大村で通された部屋にいたのは網切の甚五郎だった。大村のもの25人は皆あの世に行ってもらったと聞いて絶句した平蔵だった。平蔵に浪人達の刃が襲い掛かり矢が射こまれた。これまでかと思った平蔵だったが、そこへ九平の自白で与力・同心らが現場に駆け付け猛然と斬り込んできた。江戸から110里離れたところで、甚五郎はあと一息だったなあと言いながら、今度は平蔵を狙うのではなく江戸を火の海にしてやると語ったところで、九平がここを通るはずだと言って甚五郎を待ち伏せした平蔵が遂に甚五郎の右腕を斬り飛ばした。平蔵は九平を目こぼしした。
山吹屋お勝
平蔵の妻久栄の実家三沢家の前当主仙右衛門55歳が5年前に妻を亡くし再び茶屋で知り合った女中お勝を嫁に貰おうとしているが、当主より諫めてほしいと頼まれた平蔵は早速首実検に向かう。山吹屋でお勝の手首をつかむと一種の護身術のような身の裁き方をしたことが気になった。平蔵は利八に身元を探らせた。利八が白子屋勘兵衛と名乗って三沢家と親類すじにあたると言ってお勝に相手をさせようとすると、お勝が利八さんでは?と言い出した。利八がよく見ると“おしのか?”とうめいた。15年前に利八に捨てられたと言いながら一刻もの間2人は離れなかった。利八は平蔵に報告しなかった。お勝も行方が知れなくなった。おしのと利八は盗賊の掟を破って関係が出来てしまい、蓑火の喜之助がおしのを預かることになり二人は以来会わなくなった。利八は平蔵に手紙を送った。おしのは中国筋から上方へ根を張る盗賊霧の七郎一味に入り引き込みを務めていた。霧の七郎は三沢家へ押し込み皆殺しにして平蔵を悲しませる計画を立てていた。それを告げて2人は行方を消してしまった。平蔵は霧の七郎が潜む油屋に押入り捕らえた。前当主仙右衛門が平蔵を訪ね、平蔵は従兄の情熱をどのように冷ますか思案した。
鈍牛
蕎麦やに放火して金を盗んだ犯人として捕らえられ自白した亀吉について、町で同情する噂を聞いた粂八が同心酒井に噂を伝え、それが平蔵に伝わった。確かに亀吉はおつむが少し緩い。同心田中の密偵源助は田中に手柄が上がっていないため拷問攻めにして亀吉を嘘の自白を引きだしたことを務めた平蔵は源助を牢にぶち込み、亀吉に会った。亀吉に優しく尋ねると亀吉が火を放ったことはない。亀吉は犯人を見ていたが名を明かさなかった。平蔵は亀吉を犯人として晒した。亀吉は晒されることに苦痛を感じていない。5日目になり、そんな亀吉を凝視した男がいた。平蔵がその男を捕まえると、男は以前亀吉の面倒を見てやった事のある男だった。男は刑に処せられた。源助は八丈島へ島流し、田中は江戸追放の処分で済んだ。田中の二ノ舞を誰かがやったら今度は俺が斬ると部下の前で宣言した。