新装版 鬼平犯科帳(五)1⃣ 池波正太郎

2006年10月25日第1刷発行

 

表紙裏「横なぐりに脇差をたたきつけてきた。かわしきれず左肩を切り裂かれた平蔵。『鬼平。お前もこれまでだ』闇の底から、綱切の甚五郎の声が聞こえた。…鬼平の危機せまるスリルを描く『兇賊』をはじめ、『深川・千鳥橋』『乞食坊主』『おしゃべり源八』『女賊』『山吹屋お勝』『鈍牛』の七篇。」

 

深川千鳥橋

 51歳になる大工の万三は、お元の胸にひどい喀血をした。職人としてこれはと思う屋敷の間取り図をつくり、盗賊どもに売りつけていた。大滝の五郎蔵にも茶屋の間取り図を3年前に70両で売ったばかり。先の短い万三は、手元に残っていた間取り図を売って、お元とひっそりとした生活を送りたかった。万三が売りつける先を請け負った文助は、代替わりした鈴鹿の弥平治に話を持って行った。五郎蔵は平蔵役宅内に捕らえられていたが牢を破って逃亡。万三のことを平蔵に教えた五郎蔵が、万三はお縄にかけないとの約束で盗賊ら一味を召し捕るために釈放された。文助から話を聞いた弥平太は250両もの値打ちがある間取り図をたった10両で買うと言い、文助を始末してしまう。万三が文助の使いの女から呼び出されて弥平太のいる屋敷へ出向くと、文助がいない。お前もじきに文助のそばに行けると聞かされ、撲殺されようとするや、平蔵らが乗り込んで一網打尽。平蔵は万三とそこに呼び寄せたお元の2人を放免する。五郎蔵は号泣した。

 

乞食坊主

 鹿川の惣助と寝牛の鍋蔵が貴船明神の裏手の社で次のお務めの密談をしていたのを、乞食坊主に聞かれてしまった。人が周囲にいたため乞食坊主の跡をつけて始末しようとしたが、乞食坊主は思いのほか腕が立つ。2人は100両の金を急ぎ仕事で工面して金で人殺しを請け負う刺客を用意した。刺客が襲い掛かると、乞食坊主は、刺客に、お前は菅野伊介ではないか、おれは伊関録之助、そのなれの果てだが、剣術を悪業に使わないぞ、人に頼まれたか、と迫り、菅野は伊関に洗い浚い喋った。2人はかつて本所の高杉銀平道場で剣術を学んだ仲だった。昔馴染みの伊関が平蔵を訪ねたことで、惣助・鍋蔵らが押し込もうとした当日、平蔵は一味全員を一人も残らず召し捕った。伊関は以後密偵として役立つ。菅野は自害した。

 

女賊(前編)

 東海道・岡部の宿屋川口屋で好々爺の小兵衛は名の知られた盗賊を引退してしばらく経つ。そこへかつての仲間福住の千蔵が6年ぶりに訪ねてきて、小兵衛の息子幸太郎がとんでもないことになっていると教えてくれた。小兵衛は息子が心配のあまり急遽江戸に出た。おまさと偶然会い、事情を話す。息子は生まれた直後に他人にもらわれたが、そこの女房が子をもうけた為に大坂屋に奉公に出され、その息子に目を付けた猿塚のお千代という女賊が幸太郎にしなだれかかり手先に使われそうだ、だが幸太郎の顔も分からず、猿塚のお千代の手がかりもつかめないので、おまさにお千代の居所を突き止めてくれないかとのことだった。おまさは平蔵に事の次第を伝え、2人を見張り、お千代の行き先が井筒屋というお菓子屋であるのを確かめた。孝太郎を乗せた駕籠かきに聞くと、孝太郎は根岸の方で降りたことが分かった。平蔵は彦十と粂八を連れてくるように指示を出す。