天子蒙塵(四) 浅田次郎

2018年9月26日第1刷発行

 

帯封「『龍玉』にまつわる伝説は最終章へ。放浪の時は終わった。この国とかの国はどこへ向かうのか。日本と中国の浅からぬ縁を綴る国民的ベストセラー『蒼穹の昴』シリーズ、ついに第五部完結!」「天子たちはそれぞれに輝きを取り戻さんとする。満洲ラストエンペラー・溥儀が再び皇帝の位に昇ろうとしている。そんななか、新京憲兵隊大尉が女をさらって脱走する事件が発生。、欧州から帰還した張学良は、上海に繰り返し襲い来る刺客たちを返り討ちにしていた。一方、日本では東亜連盟を構想する石原莞爾関東軍内で存在感を増しつつあり、日中戦争突入を前に、日本と中国の思惑が複雑に絡み合う。満洲に生きる道を見いだそうとする正太と修の運命は。長い漂泊の末、二人の天子は再び歴史の表舞台へと飛び出してゆく。」

 

第4章 ひといろの青

永田の吉永への話は続いた。永田は、姦通罪を適用すべきところを、応召令状の発布をした関東軍の出鱈目ぶりに怒りを覚えた酒井大佐がシベリアまで池上美子を逃がした事件を通して、吉永に関東軍は今も昔も同じか否かを問うた。吉永は張作霖という事実上の国家元首を正規軍が暗殺したことから変わらないと述べた。田宮修が新聞記者の北村に、瀬川と川島芳子のことで質問をしたことで、北村は田宮修が知っていることを聞き出そうとしていた。永田と吉永の懇談の場に永田に呼ばれて石原が合流した。石原は吉原に、張作霖爆破事件に関わっていないが、この事件の轍を踏まぬよう柳条湖事件を起こして満州事件の発端を開いたことを述べた。吉永は、永田が軍務局長になるのは当然としても、石原は軍人ではなく宗教家である、天才でもなければ英雄でもない、日蓮の予言を信じて世界最終戦に至ると信じ、みずからを英雄たらんとする、皮肉屋で臍曲がりの宗教家に過ぎないとし、彼が参謀本部作戦課長という帷幕の最中枢の役職に就くことに危惧を覚えた。周恩来は上海に滞在中の張学良と陳一豆将軍に対し、ただちに内戦を停止して中国人はひとつにならなければならない。そうでなければ祖国が地球上から消えてしまう。その悲劇をとどめることが出来るのは蒋介石でも毛沢東でもなく張学良ただ一人。それを伝えるためにここを訪れたと述べた。宋教仁の教えが21年の時を踏み越えて引き継がれようとしていた。張学良は祖国に帰国した。満州国は共和制から帝政に移行した。溥儀が初代皇帝康徳帝として即位した。梁文秀は官史任命権を皇帝陛下が完全に掌握さえすればよいと進言していた。

終章

かあさんが、子供達に、雷、雲、玲の物語を聞かせて、「どうしようもない」とさえ言わなければ、人間は存外まともに生きてゆける、「きっとどうにかする」と面白おかしくおまえなりに悲しい話でなくて語っておやりといってお終いとなる。

表紙には、清代皇帝の龍袍(ロンパオ)の刺繍が描かれている。