影ぞ恋しき〈下〉 葉室麟

2018年9月15日第1刷発行 2018年11月15日第2刷発行

 

裏表紙「香也の婚約者となった清四郎は、吉良の仇を討つべく江戸に向かうが、将軍綱吉・柳沢吉保と次期将軍家宣との権力闘争に巻き込まれてしまう。清四郎の危機を救うため、蔵人も江戸に向かう。夫婦、親子、友との清冽な絆を描いた葉室麟最後の長編小説にして、蔵人と咲弥夫婦の三部作が十年の歳月をかけ遂に完結。解説・島内景二」

帯封「感動の三部作 遂に完結 愛する人に一首の和歌を捧げるため、命を賭けた男の純情。『いのちなりけり重臣を誅殺した光圀公は翌日一人の奥女中を召し出した。この際、御家の禍根を断つべし-小城藩主への書状の真意は。『花や散るらん』京で静かに暮らす雨宮蔵人と咲弥は、朝廷と幕府の暗闘に巻き込まれた上、赤穂・浅野の吉良邸討ち入りに立ち会うことになる。」

 

蔵人と清四郎は天野将監と山本常朝に伴われて大阪城の城門をくぐり、越智右京は、辻月旦、右平太、磯貝藤左衛門を従えて、彼らの前に現れた。清四郎と右平太との勝負は引分けに終わり、蔵人は月旦との勝負に辛うじて勝利した。大阪城には、近衛の使者として咲弥が清蔵に伴われて香也と共に現れ、蔵人らは大阪城を出て、肥前に向かうために相模屋で支度を整えた。ところが清四郎一人、蔵人らに迷惑をかけないよう書き置きを残して姿を消した。蔵人と清蔵は清四郎を追い掛け、咲弥と香也は船で肥前に一足先に向かった。清四郎は金剛杖を持つ山伏の集団に襲われ、鉄砲を持つ根来衆に右太腿を撃たれた。清四郎を取り戻すために蔵人は湊川近くの正成公の墓所に向かった。勘定奉行の萩原重秀が使う根来衆は清四郎を取り押さえて人質にして蔵人が来るのを待っていた。そこに右近が辻月旦と右平太を引き連れて根来衆を撃ち殺し、清四郎を奪った。そこに蔵人が現れ、自らの命と引き換えに清四郎の命乞いをした。右近は刀を振り上げて蔵人に向けて振り下ろしたが、正徳の治を説く蔵人の首筋で止め、明朝の立ち合いで事を決することが決まった。一進一退の攻防が続く中、藤左衛門は蔵人目掛けて鉄砲を撃つ。銃弾が胸を貫き、右近は藤左衛門に蔵人の亡骸を始末せよと命じ、公儀隠密を解く。藤左衛門は蔵人を大石りくの元に運び手当をした。蔵人が助かるかは不明だった。咲弥は香也を連れて蔵人の元に向かった。国許に帰りながら再び国を出れば再び佐賀に戻れぬかもしれなかったが、後悔はなかった。蔵人の元に向かう直前、元武公に会い、咲弥は返歌を届けに行く決意を伝えた。咲弥は蔵人の耳もとで和歌を詠じた。「君にいかで 月にあらそふ ほどばかり めぐり逢ひつつ 影を並べん」西行法師の月にちなむ歌である。毎夜眺める空の月と競うほどに恋しいあなたとめぐみ逢い、影を並べていたい、という思いの歌だった。蔵人の目に涙がにじんだ。鉄砲傷から快復した蔵人は佐賀に戻り、清四郎と香也を祝言させ、天源寺家の家督を継がせた。家宣が在位3年で逝去し、幼少の家継公が正徳の治を引き継ぐが、在位4年、享年8歳で亡くなり、八代将軍に吉宗が就いた。蔵人と咲弥の二人は佐賀を出て鞍馬山に戻った。