朱夏《三》 宮尾登美子

1996年5月10日発行

 

岡本先生の食事だけ相変わらず不平等が続き、絶対服従の部下だと考えている岡本先生への嫌悪は募った。日本人が子供を売るのが増えた。綾子が以前着ていた雨コートと三好の白の背広が市場で売られていた。名前が入っているのだから取り戻せるという綾子を三好は宥めた。岡本先生は温に預けた荷物をいつかは取り返せると希望を捨てなかった。教師の仲間達で食料集めに知恵を絞る約束をしたら、ある婦人は体を売って饅頭を確保した。綾子は何も調達できなかった。無理をした村田先生は手にしたものを結局奪われる結果となった(第3章 逃走-営城子(一)承目前)。

 岡本先生は引越しを告げるとともに今後は別々に生きて行ってほしいと告げ、綾子には我儘な言動に気を付けるよう忠告した。気がつくと岡本先生だけが開拓団の集団の中に入っていた。要は石炭採鉱のため坑内作業に従事させられ命がけの肉体作業に駆り出された。高熱が続く要のために祈禱師をしている一心斉が20円をかつてのお礼だとして綾子に握らせた。市場で米と卵を買い要の口に運んだ。恥を忍べば白米を口に出来るという経験をした綾子は、美那を売ってでも、うどん一杯を食べて舌と胃袋を満たす欲望に打ち勝つことに苦しんだ。次第に美那のおむつの代わりに人が干している人のものを盗むことが頭にちらつく。遂におむつを盗み、子供相手に足元を見られて包米饅頭1個と交換した。要はボイラー焚きの仕事に変わり、家もスチームが入る部屋に越した。ボイラー焚きに回った要が鉄板を丸く切り鍋を作って持って帰った。要は岡本先生と荷物を取りに温に会いに行くという。綾子は危険なのでやめてくれというが要は聞かない。結局岡本先生一人が温に会いに行ったが荷物を取り返すことはできず命辛々帰ってきた(第4章 越冬-営城子(二))。