2006年7月12日第1刷発
裏表紙「はっと、平蔵が舟の中へ身を伏せた。荒屋敷の潜門がしずかに開き浪人風の男があらわれ、あたりに目をくばっている。(これほどの奴がいたのか…)平蔵の全身をするどい緊張がつらぬいた。凄絶な鬼平の剣技を描く「血闘」をはじめ「霧の七郎」「密通」「夜鷹殺し」など全八篇。」
おみね徳次郎
徳次郎は寝ていたおみねの首に紐を回して殺そうとした。その瞬間、おみねは目を見開き「殺す気かえ」と言い、徳次郎は尻もちをつき茫然とした。徳次郎は大盗網切の甚五郎の腕利きの配下で、親分から江戸を離れるよう言われておみねを殺そうとしたのだが、おみねが一枚上だった。おみねは湯道具を抱えて家を出た後に忘れ物に気付いて家に帰ると、徳次郎の下に佐倉の吉兵衛が訪ねて来て徳次郎へのお頭の言付けを伝えていたのを玄関先で聞いてしまったので徳次郎が正体がバレたと思い凶行に及ぼうとしたのだが、おみねの貫録勝ちだった。おみねは盗賊・法楽寺の直右衛門の一味だった。ある時、おまさがおみねとすれ違い、一杯誘い出した。それをおまさは平蔵に伝え、平蔵は直右衛門だけでなく綱切の甚五郎まで召し捕ることが出来るかもしれないと作戦を練った。平蔵は徳次郎を捕らえ、彦十を使って直右衛門一味を召し捕った。綱切一味は網の目から逃れていった。おみねの始末をどうつけるか思案する平蔵だった。
敵
大滝の五郎蔵が、五井の亀吉を殺したことはない。だが殺したことにされて、亀吉の息子与吉が父の仇だと言って山里で斬りかかってきた。そこに旅で偶然左馬之助が通り、五郎蔵が与吉を殺す場面に出くわし、五郎蔵の後をつけて、江戸の盗人宿を突き止めると、平蔵宅に寄った。五郎蔵は自分に罪を擦り付けたのは、伝八ではないかと推量していた。以前、亀吉が伝八の女漁りを蹴とばしたことがあり、その時の伝八の亀吉の眼が気になっていたからだ。舟形の宗平の所により一切合切相談して納得を得たが、五郎蔵の別の盗人宿が荒らされていたこともあり、伝八に付け狙われていると考えた五郎蔵は別の配下の者を頼って行った。ところが、そこも伝八の息がかかっており、絶対絶命の窮地に陥った。そこへ左馬之助と平蔵が押し掛けて五郎蔵を助け出し伝八を討ち取らせた。五郎蔵が平蔵宅に引きたてられると、そこには宗平がいて平蔵は宗平から一切を聞いていた。以来、宗平と五郎蔵は義理の親子の縁を結び、今後は人のために働けと平蔵から諭されたとおり、密偵となることを決めた。
夜鷹殺し
夜鷹のおもんが殺された。更に2人の夜鷹が殺され、また更に2人の夜鷹が殺された。手口は皆同じような陰惨なものだった。夜鷹のおつねは耳、鼻、指まで全て切り落とされていた。町奉行所が動かないため平蔵は単身究明に乗り出した。おまさが囮となって動き出す。平蔵が跡をつけると何事もなく、平蔵が跡をつけない時は表に出るなとの言渡しを無視しておまさが彦十だけ連れて外を歩いた時、武士から斬り付けられた。幸いに命に別状はなかった。7日目、再び同じ武士がおまさの前に現れて遊ばぬかと声をかけた。おまさはついて行った。おまさが首を絞められたところで手裏剣が右肩口に突き刺さり武士は逃げた。彦十が跡を追い掛け、武士の屋敷を突き止めた。旗本の屋敷だった。平蔵は川田長兵衛を内偵した。見張り宿から確認したがおまさは夜と昼とでははっきりしないという。再び屋敷から武士が出て来た。おまさを囮に出すと、声をかけてきた。平蔵はここで登場して腹を切れというが襲い掛かってきたため斬った。縁談の決まっていた息子が岡場所の女を通いつめ心中したことを逆恨みしての凶行だった。